『ソニー 最高の働き方』(片山修・著/朝日新聞出版)

 しかし、苦しい経営にありながらも、ソニーは人的投資をないがしろにすることはなかった。

 ソニーは、12年から確定拠出年金を導入し、19年10月には確定給付年金の過去分を含めて確定拠出年金に全面移行した。

 終身雇用を支えてきた確定給付年金から確定拠出年金への移行は、財務負担の軽減のほか、社員のキャリアやライフプランの多様化への柔軟な対応が目的だったが、当時、社内外にその趣旨が理解されたとはいえなかった。

「転換点は、業績が底を打ったときだと思います」と、安部は説明する。

 16年3月期以降、安定的に利益を出せるようになり、18年3月期には営業利益で当時の過去最高益を達成した。

「成長傾向に戻ったことで、ヒトに対する投資もできるようになりましたし、会社がやろうとしていることの趣旨を社員にわかってもらいやすい環境になりました。ヒトに投資ができるようになりましたから、ヒトからの成果も大きくなってきました。おかげで史上最高のボーナス支給ができるようになりましたし、確定給付年金も、約40%のプレミアを載せることで、確定拠出型へ変えることができました」

主役はあなた、多様性こそがソニーの競争力

 ソニーは、井深、盛田の時代から大切にしてきた人材に対する考え方を「Special You, Diverse Sony(スペシャル・ユー、ダイバース・ソニー)」と再定義した。

「主役はあなた、多様性こそがソニーの競争力」という意味だ。

「会社が研修を用意し、次はそちらにいってくださいとは、ソニーはいいません。自分がどうしたいのか、どういうスキルを身につけたいのかを問い続けます。盛田さんは、『チャレンジするリスクより、チャレンジしないリスクのほうが危険だ』といっていましたが、現状維持への危機感はつねに持っています」

 日本の会社で日々、仕事を楽しいと感じている人たちは、どれだけいるだろうか。どれだけの人が、やりがいを持って仕事をしているだろうか。

 ソニーの人たちが生き生きと楽しく仕事をするさまは、他社に比べて突出しているように思われる。そう安部に告げると、次のような答えが返ってきた。

「私は、入社のとき、人事の仕事を希望したわけではありません。自分で何かしたい、世界をフィールドに活躍したいと思っていました。ところが、人事の仕事に就き、グローバルな社員に活躍してもらうことで何かを達成することが自分の仕事になりました。自分でなく、ヒトの活躍を通して物事を成し遂げるというのは、むずかしい分、より深いやりがいを感じるようになりました。いまでは、ソニーの人たちに楽しく、生き生きと仕事ができていると感じてもらうことが、何事にも代えがたいやりがいと充実感につながるようになりました」

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