(写真/アフロ)

 質問内容は、主要な事業体のすべてに共通している。「組織風土」「社員エンゲージメント」「働きがい」「社員と会社がわかり合えているか」「Purposeにどれだけ共感しているか」―などだ。それは、社員の貢献意欲や生産性の向上につながる重要な指標となる。「どれだけ社員が働きがいを感じているか」という項目には、約9割の社員が「働きがいを感じている」と回答している。社員の離職率が国内グループで約3%と低いのも、社員が働きがいを感じているからだ。秋のフルサーベイの回答率は、90%以上に上る。

 特筆すべきは、「社員意識調査」の結果が、役員個人のボーナスに反映されることだ。「社員のエンゲージメントが高くなければ、役員のボーナスは低くなる。経営陣は、つねに社員に向き合い続けなければならない状態といえます。業績の苦しい時期に人事制度を変えていきましたから、会社がやろうとしていることの真意をわかってもらうためにも、『社員意識調査』に時間をかけたのは正解でした」

 さらに、ソニーは、社員への株式報酬付与を拡大していく方針だ。譲渡制限付株式ユニット(RSU)で、社員が経営陣と同じ目線で価値向上を図るのが狙いだ。22年に導入し、付与対象者も増えている。

経営が苦しい時期を超えて、さらに「人への投資」を加速

 日本が「失われた30年」に陥った原因の1つに、ヒトへの投資を怠ったことが指摘されている。実際、日本の会社は、「ヒトを大切にする」「ヒトは宝である」といいながら、本当の意味でヒトを大切にしてきたのだろうかという疑問が残る。

「日本の経営者は、そのときどきで正しいと思うやり方でヒトを大切にしてきたのだと思います。しかし、いまの物差しで考えるとどうだろうかと……。1人当たりの人材育成への投資額を国際的に見ると、日本は極めて低い。そのことが昨今のグローバル競争の中で日本が立ち行かなくなった理由かもしれません」

 ここへきて産業構造は大きく変化している。企業価値の源泉が知識やアイデアといった無形資産にシフトする中で、ヒトへの投資は不可欠だ。

「もはや、技術力で優れた製品を大量につくり顧客に届けることを日本の競争力とし続けるのはムリです。新興国が複製しやすいモデルである以上、そこは考えなければいけない。それには、雇用のあり方から変えていかなければならないわけです」

 その点、ソニーは、ビジネスの構造変革と同時並行的に、人事のあり方を抜本的に見直してきた。当時を振り返って、安部は次のように回想する。

「業績が悪いときは、コストダウンが先にきます。ヒトに対する投資の制約も大きくなります。どうしても短期的な経営に陥ります。事業譲渡や事業所の閉鎖、給与の抑制をしている中では、成長のための人事の施策もとりにくい」

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