つまり二人とも、これまでよりも抑制的で、理想主義に流されない現実主義の外交政策が必要だとしているのだ。そうなると、もしハリス大統領が昔ながらの覇権主義的、アグレッシブな方向に向かった場合に、彼らが何らかのブレーキ役になる可能性がある。

意思決定は検察官スタイル

 これは重要な安心材料といえよう。ただし、本に書いたものと実際の行動が一致しないことはままあるわけで、彼らがこれらの考え方を実際の政策にそのまま反映しようとするかどうかはわからない。また、重要な外交政策の最終決断は大統領なので、ハリス大統領がアドバイザー達の意見を退ける可能性もある。

 となると、ここで気になってくるのは、ハリス氏の意思決定のスタイル―どのように物事を決めていくのか―である。

 これに関して、ワシントンポスト紙のコラムニストが、バイデン政権の安全保障・外交政策の政策決定プロセスにおけるハリス副大統領の様子について、その場で見ていた官僚や軍事関係者らにインタビューしている。それによると、インタビューされた人達が口を揃えて言ったのは、ハリス氏の態度が「まるで検察官のようだった」である。

 問題に対して非常に用心深く、探りを入れるような、時に疑い深い態度で分析し、さらに必要な情報を容赦なく、時にはせっかちに要求をする。そして、質問はいつも的確で、ある政策が必要だと確信した際には恐れず行動する、というスタイルである。

 ハリス氏は2017年に上院議員になるまでは、カリフォルニア州の検察畑でキャリアを重ね、2011年には州司法長官に就任している。従って、このような検察官スタイルがまさに染み付いているのだろう。

 この検察官スタイルは、別の言い方をすれば、事実・データ確認を徹底的に行い、各オプションのプラス・マイナスをぎりぎりと天秤にかける、ということだろう。そして、特に外交政策で言えば、本人の個人的なイデオロギーや過去の経験則には依らず、リスクと便益のバランスを見極めながら国益追求するという方向になる。

 となると、これも一つの安心材料と言えよう。少なくとも、リスクが大きい強硬路線や好戦的な行動を、十分に吟味せず、拙速にとることは避けられるからだ。

 ただ、ここで懸念されるのが、国内政治に関する計算がリスク・便益の天秤がけで相対的に大きく作用する可能性だ。つまり、大統領が国内政治で窮地に立っている場合、外交面での強硬路線が政権維持に優位に働くと判断すれば、そのような政策選択をするかもしれない。

 さらに付け加えるならば、このスタイルだと、ハリス大統領が長期的な視野に立った政策や大胆な政策変更(例えば、対イスラエル・パレスチナ問題)をとることは期待出来ないだろう。

 以上を合わせて考えると、ハリス政権が誕生した場合、米国の外交・安全保障政策全般があからさまに強硬路線へと転換する可能性はかなり低いだろう。しかしながら、ケース・バイ・ケースでタカ派の好戦的な行動をする可能性を排除することも出来ない。特に、対外面での強硬姿勢が国内政治的に有利に働く、という計算がされた場合である。いずれにせよ、国内政治状況の動向が、これまでに増して外交政策に影響することになるだろう。

 翻って、石破首相にとって、ハリス大統領は、実務的で情報通の、概ね安定した同盟パートナーとなるだろう。同時に、日米地位協定見直といった重大な二国間交渉では、非常にタフな交渉相手になることが予想される。そして、アメリカの国内政治・社会情勢により一層の注意を払うことが必要となる。

 最後に、ハリス氏の興味深いエピソードをもう一つ。

 ハリス氏は副大統領就任した最初の年に、政府の情報機関が作る個人機密文書に性差別表現が使用されているかどうか、担当組織に全体調査をさせている。彼女が就任当初に、ある国の指導者(女性だった)の機密ブリーフィングを受けた際に、性差別的な言葉が複数使われたことに気づき、問題視したからである。そして、今後そういった性差別表現が使用されないように、担当者ら全員に訓練を受けさせた。

 つまり、性差別的な表現の使用には非常に厳しいということである。

 性差別については問題山積みの日本の政治の世界に長く身を置いてきた石破首相。ハリス大統領との対話の際は、この点についても十分に注意すべきだろう。

暮らしとモノ班 for promotion
ヒッピー、ディスコ、パンク…70年代ファションのリバイバル熱が冷めない今
次のページ
性差別的な表現には厳しい