もちろん、党大会やテレビ討論会での発言はアメリカ人に向けた選挙メッセージなので、非白人で女性初の大統領を狙うハリス氏としては、このような言葉使いで信頼性を勝ち取ろうとした、と見ることもできる。しかし、それだけとは言えないだろう。実際、ハリス副大統領に安全保障関連のブリーフィングを幾度もしてきた元軍幹部が、「彼女はほとんどの人が考えているよりもずっと強硬路線だ」と最近のインタビューで述べている。
このような傾向は、日米関係を外交・安全保障政策の柱とする日本政府にとって決して好ましいものではない。場合によっては、ブッシュ大統領のイラク侵攻のような拙速な軍事行動に加担させられるかもしれないからだ。
一方、外交アドバイザー達は?
では、ハリス外交は本当に強硬路線に向かうだろうか? ここで一つの目安となるのは、彼女の外交政策の参謀となる人達である。
現時点でのハリス副大統領の安全保障補佐官はフィリップ・ゴードン、その副補佐官はレベッカ・リスナーである。ハリス大統領誕生の暁には、この二人が安全保障政策陣営のトップとナンバー2となることが確実視されている。
彼らは、バイデン政権以前から民主党政権での外交・安全保障政策作りに関わってきた政策通で、二人ともアメリカ外交に関する学術書や論文を多数発表している。そして興味深いのは、実は二人とも、米国がしばしば単独で強引に世界をリードしようとしてきたことを指摘し、問題だとしていることである。
彼らの最新の著書を見てみよう。ハリス氏と同世代のゴードン氏は自著「Losing the Long Game」(2020年)で、米国が、世界における民主主義推進の名のもとに、中東地域で行った政権転覆の政策がことごとく失敗に終わったと指摘し、今後このような無理な関与はするべきではない、としている。
そのゴードン氏より一世代下のリスナー氏は共著「An Open World: How America Can Win the Contest for 21st Century Order」(2020年)で、「米国が理想とするリベラル世界秩序を米国単独で構築できるなどという考えは幻想」と言い放つ。そして、そんな「救世主のような使命」のために米国覇権を維持するという戦略からは卒業するべき、と提案している。