彼女が会社を辞めた理由とは…女性との茶飲み話から女性の「心」と「選択」が見えてくる…
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 現代日本に生きる女性たちは、いま、何を考え、感じ、何と向き合っているのか――。ノンフィクション作家で写真家のインベカヲリ★さんが出会った女性たちの近況とホンネを綴ります。

【写真】「コップの水があふれた瞬間にセクハラをしてきた」上司もかわいそうと語る

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上司からラブホテルに誘われた

 出版社で働く有希さん(33歳/仮名)が、会社を辞めたという。優秀でやる気もあるように見えたのに、一体何があったのだろう。

喫茶店で会うと、彼女はこれまでの経緯を勢いよくしゃべり始めた。

「直属の上司からラブホテルに誘われたんですよ。会社の飲み会の帰りに、2人で歩いていたら本当に突然。人事にセクハラを訴えたけど、席替えだけして終わり。口外禁止にされたので、社内では誰もこのことを知らないんですよね」

 上司は、10歳年上。お互い既婚者であり、上司からは妻の話もよく聞かされていたという。とはいえ、実際にホテルへ行ったわけではないので、それだけで退職するというのは私には意外だった。これまで多くの会社を渡り歩いてきた有希さんは、修羅場をくぐってきた印象があったからだ。

30代でのセクハラは初めて

「30代でセクハラを受けたのが初めてだったから、すごく悩んだんですよ。だけど、20代のころからセクハラを受けてきて、いつも流していたことを思い出したんです。しかも、当時の私は、男性から『セクハラされても仕方ないよね』って言われるような振る舞いをしていた。よくしゃべるし、明るく見えるようにしていたし、全然そんなんじゃないのにおじさん好みに合わせてキャラを演じていた。自分の中でずーっと続けてきた外見と内面のズレ、いびつさみたいなものが、今回もまたセクハラを受けるというかたちで出ちゃったのかなって思ったんです」

 有希さんが新卒で入った会社は、年配の男性ばかりいる職場だった。まったく女性がいない中に、お酒の飲める若い女性が入ってきたことで、当時はたいそう喜ばれたという。

相手が望む振る舞いをしたほうが人生ラク

「そういう中にいると、男性たちと対等に過ごすんじゃなくて、こっちがちょっと頭パッパラパーみたいな感じでいるほうがいろんなことを教えてくれるんですよ。逆に、きちんと勉強して対等であろうとすると嫌がられる。女性だからやらせてもらえない仕事も結構あったし、性的に見られて気に入られていたほうが、評価が上がって良い仕事を振ってもらえたんです。当時は、『ホテル行こう』って言われても、『また今度ね』みたいなことが平気で言えた。相手が望む振る舞いをしていれば、仕事がスムーズに進むし、人生はラクなんだと思っていました。性的な嫌がらせを、嫌がらせだとさえ思わなければね」 

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