
検察側は、須藤被告の「ヘルスケア」の記録から、犯行の日に、
「16時50分から20時まで少なくとも8回、(野崎さんがいる)2階に上がった」
として、野崎さんが急性覚せい剤中毒で死亡した推定時刻、20時から22時に合致すると主張した。
過去の裁判で認められなかった「ヘルスケア」
実は、過去にも「ヘルスケア」アプリが裁判の争点になった事件があった。
カジノなど統合型リゾート(IR)事業への参入を目指す中国企業側から賄賂を受け取ったとして、2019年12月に秋元司・元衆院議員が収賄容疑で逮捕された事件だ。
東京地裁であった秋元被告の裁判で、秋元被告の弁護側が、ヘルスケアアプリの記録を証拠として提出。
「贈賄側から議員会館で現金を受け取ったとされた時間には、国土交通省にいて、議員会館には移動していない」
と主張した。
しかし、判決では、
「アプリは秋元被告の動静について、計測時間と停止時間を正しく反映しておらず、行動状況の認定を左右するほどの証明力はない」
と認めなかったのだ。
秋元被告には実刑判決が出され、控訴審でも敗訴。現在は上告中だ。
今回、検察側はそのアプリ記録をあえて「切り札」として出してきた。
これについて、元検事の落合洋司弁護士に話を聞いた。ちなみに落合弁護士は、最新のiPhoneなどスマートフォンを4台、タブレットを2台所有し、デジタル機器の「おたく」と自称する人物だ。
「検察は、須藤被告の検察履歴などから、スマートフォンを片時も手放さないとみて、犯行場所の2階に犯行時間に上がったという最大の証拠に、ヘルスケアアプリの記録を出してきたのでしょう。常に最新のスマートフォンを使っている私の感覚だと、この4、5年のヘルスケアはかなり正確だと思う。ただ、2018年ころはどうだったのかな。このアプリは位置情報と連動、記録するものでしょうから、両方の精度が問題になる。一般市民が判断する裁判員裁判ということもあって、アプリを証拠にしたと感じる。検察側は秋元被告の事件で、裁判所がヘルスケアの記録を認めなかったことは承知の上だと思います。密室の事件で目撃者もいないので、ヘルスケアの信用性を裁判所がどう判断するのか注目です」
(AERA dot.編集部・今西憲之)