ロシア軍がウクライナ東部に攻勢を仕掛けている。2022年にロシアによるウクライナ侵攻が起きて2年以上が過ぎたが、終わりが見えるような状況ではない。ソ連崩壊後、民主国家として歩み始めた新生ロシアは、なぜ隣国を侵略できるような国になってしまったのか。プーチン大統領やロシアからはいったいどういった世界が見えているのか。朝日新聞論説委員の駒木明義氏がその内情に迫る。(新刊『ロシアから見える世界 なぜプーチンを止められないのか』(朝日新書)から一部抜粋、再編集した記事です)
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2023年3月17日、大きなニュースが飛び込んできた。戦争犯罪や人道に対する罪などの重大犯罪に問われる個人を裁く役割を担っている国際刑事裁判所(ICC)が、プーチン大統領に逮捕状を出したことを発表したのだ。ロシアが侵略しているウクライナから、子供たちを不法に移送したという容疑だ。
国連安保理常任理事国で、世界秩序の保証人として核保有を認められている国の大統領が戦争犯罪の容疑者になったというのは、まさに歴史的な異常事態だ。
ロシアはICCに加盟しておらず、実際にはプーチン大統領が身柄を拘束される可能性はほとんどない。しかし以前のように自由に外遊することは難しくなるだろう。
ICCの決定を尊重することを約束している加盟国の中には、かつてソ連の構成国だった中央アジアのタジキスタンや、BRICSを通じてロシアと協力関係にある南アフリカやブラジルが含まれる。実際、23年8月に南アフリカで開かれたBRICSの首脳会議をプーチン氏は欠席し、オンラインで参加した。
ICCの決定は画期的だが、副作用も否定できない。
それは、プーチン氏が引退するというシナリオがほぼ閉ざされたということだ。大統領を辞めれば、実際に逮捕される可能性が飛躍的に高まる。仮に次の政権がプーチン氏の安全を守ると約束したとしても、それがあてにならないことはプーチン氏自身が誰よりもよく知っている。
プーチン氏が今後、死ぬまで大統領の座にしがみつこうとすることは、ほぼ間違いない。
ここで、容疑となったウクライナからの子供の連れ去りについておさらいしておこう。
この問題は23年2月に米国の報告書が発表されたことで、日本でも注目を集めた。
しかし、ロシアが占領地から子供たちを強制的に連れ去っている事実は、開戦後間もない時点から、繰り返し報じられていた。ウクライナ側はその人数が少なくとも1万6000人にのぼると主張している。