秦の兵馬俑(写真:アフロ)
この記事の写真をすべて見る

 大ヒット映画『キングダム大将軍の帰還』が、もうすぐ公開2か月となる。同作では山崎賢人さん演じる主人公「信」の成長を軸に、秦の統一戦争の軌跡を描いているが、史実において、最後の国を滅ぼしたのは誰だったのか。

【写真】映画で「王騎」を演じた筋骨隆々の人気俳優はこちら

 映画『キングダム』の中国史監修を務めた学習院大学名誉教授・鶴間和幸さんは、著書『始皇帝の戦争と将軍たち』の中で、「残り一国が自国を守っていくこともあり得る道であった」と指摘する。

 新刊『始皇帝の戦争と将軍たち』(朝日新書)から一部抜粋して解説する。

【『キングダム』よりも先の史実に触れています。ネタバレにご注意ください】

*  *  *

 五国が秦に滅ぼされ、残るは斉のみとなった。

 斉が西の境界を防備して交通路を絶つなか、王賁将軍率いる秦軍は北から直接南下して奇襲した。すでに王賁は、燕を攻撃して燕王喜を捕らえ、さらに代王嘉を捕らえて両国を滅ぼしていた。その勢いのまま、王賁は斉都の臨淄(りんし)にて斉王建を捕らえ、六国最後の国を滅ぼすことになる。

 秦の側から見れば、残った一国を秦の色に塗りかえるのは時間の問題となるが、斉から見れば、斉一国が四塞の国(四方を自然の地形に塞がれた国)を守っていくこともありうる道であった。

 秦が斉を滅ぼす大義は、「斉王の后勝(こうしょう)の計を用い、秦使を絶ち、乱を為さんと欲す」ことにあったと秦王自身が後に振り返っている。

 斉の丞相の后勝は、そもそも秦の間金を受けていて五国を支援することはなかった。それはいったん湣王(びんおう)のときに滅んだに等しい斉が、戦国の動乱で生き残る道であったのだろう。王建は祖父の湣王を追放した魏・韓・趙・楚・燕を秦の侵略から助ける義務などないと考えたのであろう。

 王賁将軍ら秦軍は、このとき秦の歴史上初めて斉都の臨淄(りんし)に入った。

 かつて済水の西で五ヶ国に防戦した斉は、今回も同じ場所で敵軍を迎えようとした。しかし王賁軍が燕から南下したということは、斉の北から奇襲したことになる。

次のページ
「信」の活躍はあったのか?