「家族みんなでからだを守ろう!」をテーマとした『気になるあの病気から自分を守る! 感染症キャラクター図鑑』が日本図書センターから刊行され、話題になっている。せきやくしゃみでうつる感染症、人やものにふれてうつる感染症、食べものや飲みものからうつる感染症、動物や昆虫からうつる感染症と、四つに分類。知っておきたいインフルエンザや風疹、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)、みずぼうそう(水痘)、リンゴ病(伝染性紅斑)、プール熱(咽頭結膜熱)、ノロウイルス感染症など28種の感染症をキャラクター化した、親子で楽しみながら学べる感染症の入門図鑑である。
感染症のことならなんでも知っていて「感染症から自分を守ろう!」が口ぐせのマモル博士、とっても親切な女の子で、クラスみんなの健康を気にかけているが、病気のことはよくわかっていない治代(ちよ)、とっても健康な男の子で、毎日元気いっぱい、自分は病気にならないと思っている完太(かんた)の「感染症まなび隊」が、感染症の基本を学んでいくという構成だ。
■免疫学、感染症学の集大成
「感染症は学校などではやりやすく、お子さんがもらってきて、ご家庭で家族にうつしてしまうことが多いのです」という白鴎大学教育学部の岡田晴恵教授に話を聞いた。岡田教授は免疫学、感染症学を専門として研究し、今までに70冊ほどの本を出版しているが、この図鑑はその集大成のようなものだという。
キャラクターに関しても、細菌学やウイルス学の性質に基づいたところが反映されている。例えば、インフルエンザは毎年少しずつ姿を変えて人の免疫をすりぬけているので「変身ベルト」をしていたり、MERS(マーズ、中東呼吸器症候群)は元々、中東地域のヒトコブラクダの中にあったウイルスといわれているのでラクダに乗っていたり、ノロウイルス感染症はカキなどのニ枚貝から感染することがあるが、感染した人の便や嘔吐物から感染することもあるので、トイレから出てくるというものになっている。
そして、狂犬病だ。「犬」という文字が入っていることで、犬にかまれなければ大丈夫であろうと思われがちだが、ネコやコウモリ、アライグマなど様々な動物からも感染する。感染した動物にかまれたり、引っかかれたりしてできた傷口から入り込んで感染すると、ほぼ100パーセント亡くなるといわれている。このキャラクターを見た子どもは、おそらくずっと覚えているに違いない。海外旅行や留学した際にも、むやみに手を出してはいけないというインパクトがあり、予防効果に役立つであろう。
■かわいらしい絵本の医学書
岡田教授は、2000年にドイツ留学をしていた。そのときに、キンダーガーデン(日本では幼稚園にあたる)に友人のお子さんを迎えに行ったことがある。そこには、子どもの病気の絵本やワクチンの本も多くあったのだ。先進国であれば教科書にも掲載されているほどだが、日本にはあまりなく、そのような絵本を日本で出版することを決意したという。
学校感染症の学校保健安全法、厚生労働省の感染症法、そして食品衛生法の中から呼吸器系、消化器系、皮膚病、動物や昆虫からのもの、食中毒などがバランスよく選択され、この本は、まさに「知識のワクチン」である。知ること、予防することは、ワクチンと同様の効果があるのだ。かわいらしい絵本だが、医学書でもある。つまり、この分野の医学書に書かれていることがほとんど網羅されているのだ。発行後は、学校の図書室や保健室、図書館をはじめ、病院・クリニックなどにも置かれている。現在、岡田教授は養護教諭の研修も担当しているが、先生方からも絶賛されるという。
感染症は、感染する、うつる病気で人命にも関わること。自分がかからないように用心するだけでなく、ほかの人たちにうつさないようにすることも大切である。この図鑑のキャラクターたちを通じ、感染症の原因やうつり方、予防や治療の方法なども学んでおきたい。(朝日新聞デジタル &M編集部 加賀見 徹)
『sesame』2016年5月号(2016年4月7日発売)より
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=17978