「笑点」でひとり甲子園を披露した柳沢慎吾
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 8月25日放送の『笑点』(日本テレビ系)の演芸コーナーに柳沢慎吾が出演したことが話題を呼んでいる。普段は芸人が出ているところに現役の俳優が登場するというのは異例のことだ。

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 しかし、彼はただの俳優ではない。学生時代から『TVジョッキー』『ぎんざNOW!』などの素人参加型お笑い企画に出演して笑いを取ってきた柳沢は、芸人顔負けの確かな芸を持っている。

 笑顔で颯爽とステージに現れた柳沢は、緊張するような素振りも見せず、鉄板ネタの「ひとり甲子園」を熱演した。大の野球好きである彼が、高校野球の試合中の様子を1人で再現するというもの。この日のネタでは横浜高校とPL学園の歴史的な名勝負を題材にしていた。約7分にわたって柳沢はノンストップで動き続け、しゃべり続けた。見る者を圧倒する熟練の技がそこにあった。

 一通りネタを終えた柳沢が「どうもありがとうございました!」と叫ぶと、観客席から大きな拍手が起こった。これを受けて彼は「いやー、お客さん、いい! 優しい!」と言った後、「みんな、今日家帰って、この後の大喜利見て、いい夢見ろよ! あばよ!」とお決まりのフレーズで締めた。

 柳沢は現在62歳。40代の私が物心ついた頃からずっと彼のイメージは変わらない。今も若い頃と同じハイテンションで、一点の曇りもなく明るく爽やかに持ちネタをやり切っている。そんな彼の勇姿を見ていると、最近のお笑い界が置き忘れてきた大事なものがそこにあるように感じられた。

いま陰キャ優勢時代

 ここ数十年のお笑い界では「陰キャ(暗い人)」が支配的な立場にあった。教室の真ん中で目立っている「陽キャ(明るい人)」よりも、教室の隅で1人で黙々と考えごとをしているような陰キャこそが本当に面白いのであり、そういう人こそが芸人に向いている。お笑い界ではそんな陰キャ優位説が広まっていた。

 この「陰キャ優位時代」を作り上げたキーパーソンはダウンタウンの松本人志である。彼は、芸人のバイブルとして長く読み継がれている『遺書』(朝日新聞社)の中で、面白いやつの三大条件は「ネクラ・貧乏・女好き」であると書いた。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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