アップの女性は、X社の商材を毎月数十万円単位で購入し、豪華な家に住み、毎年ハワイ旅行に行っていた。頻繁にホームパーティーに招いてくれて、「いつも頑張っているわね」とねぎらってくれるその女性を、母は30年以上にわたり崇拝してきた。家族と過ごすよりもはるかに長い時間をアップとのコミュニケーションに費やし、家族が彼女を悪く言おうものなら、「○○さんのことだけは否定しないで!」とものすごいけんまくで怒った。
マルチ商法でもうけるためには、自身の傘下にいる「ダウン」に商品購入や勧誘活動をさせ続けなければいけない。そのためには、人間関係で縛りつけたり、商材や企業理念に心酔させたりと、なんらかのマインドコントロールが必要になる。その点にこそ、単に事業に失敗して経済的困窮や家庭崩壊に陥るのとは明らかに異なる「マルチの悪質さ」があると、ライオさんは考えている。
「多くの2世が似たような家庭環境の中で苦しんでいるのを見て、これは親個人の問題ではなく、会員をマインドコントロールして家族ごと破滅させる仕組みの問題だと確信しました。絶縁を宣言したところで親子関係からは逃れられないし、姉も『将来母の介護が必要になったらどうしよう』と悩んでいます。2世は、親にまつわるトラブルや葛藤を何十年も抱えて生きることになる。家庭を幸せにするというビジョンを掲げるX社には、会員家族が悲惨な状況に陥っている事態をどう捉えるのか、問いただしたいです」
X社は「家族の理解がビジネスの基本」
ライオさんの訴えに対してX社はどう答えるのか。AERA dot.が会員の家庭崩壊などの実態について事実確認すると、X社は書面でこう回答した。
「家族の理解を得ることは弊社のビジネス活動における基本です。過度な販売活動・勧誘活動の可能性がある事案を検出した際には、直ちに該当者から聞き取りを行い、問題解決に向け速やかな対応(注意・警告・ビジネス活動停止・資格解約)を行っております。会員の『家計のひっ迫』や『家庭崩壊』という状況が事実であれば、深刻に受け止め、全社を挙げて改善に取り組んでいく所存です」
自身の親がマルチ商法にのめりこんだ子どもは、どのような人生を歩むことになるのか。連載第2回は、一度は「母のために」と自らマルチ企業の会員となったものの、今は母との“絶縁”を願う2世の事例を紹介する。
(AERA dot.編集部・大谷百合絵)
【続編<アトピーの治療は浄水、ガスコンロや炊飯器も使っちゃダメ…「マルチ商法」にのめり込む母と“絶縁”したい娘の苦悩>に続く】
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