高校生になったライオさんは、X社の製品だらけの実家に嫌気がさした姉(左)とともに、祖父母の家で暮らすようになった(ライオさん提供)

マルチは「資本主義社会のバグ」

 会員の家族を崩壊させるほどの“闇”を抱えるマルチ商法とは、いったいどのようなビジネスなのか。その仕組みはこうだ。

 まず、Aさんがマルチ企業の商品やサービスを買うと同時に、その企業の「販売員としての権利」を手に入れる。するとAさんは別のBさんに対し、自分から商材を買って販売員になるよう勧誘する。勧誘が成功すれば、Aさんは販売利益(マージン)や、販売員を増やした成果報酬(紹介料)などをもらえる。次にBさんが別のCさんの勧誘に成功すると、BさんだけでなくAさんもマージンや紹介料をもらえる。つまり、「ダウン」と呼ばれる自分の傘下の販売員が増えるほど、多くの“不労所得”が手に入り、販売組織はピラミッド式に広がっていく。

 冷静に計算すれば、この仕組みがじきに限界を迎えることは明らかだ。たとえば、1カ月目に1人だった販売員が、2カ月目に2人の販売員を獲得し、3カ月目にはその2人がそれぞれ2人ずつ販売員を獲得し……と倍々ゲームで増えた場合、27カ月目には日本の総人口を超えてしまう。

 これと同じビジネスモデルをとる「ねずみ講」は全面的に違法とされているが、両者の間には、商品の取引を介しているのがマルチ、会員費など金銭のやりとりのみで成り立っているのがねずみ講、という違いしかない。

 前出の紀藤弁護士は、両者に共通する問題点を「ピラミッドの上位にいる一握りの人間だけがもうかること」だと指摘する。

「逆転不可能なヒエラルキーのもと、傘下の会員から搾取し続ける仕組みで、市場競争を前提にした資本主義社会におけるバグのようなものです。そもそも、通販で何でも買える今の時代に、販売員を通さないと買えないビジネスモデルが存続する必要性が分かりません。マルチ商法は特定商取引法上の『連鎖販売取引』にあたり、一定の条件を満たさなければ違法とされていますが、個人的にはねずみ講と同様に禁止してもよい取引だと思っています」

母が30年以上崇拝する「アップ」

 このピラミッド構造のもう一つの大きな問題が「カルト化」だ。

 前出のライオさんは小学生のころから、母が謎の人物の名前を連呼するのを聞いていた。

「○○さんがこれを勧めてくれた」

「○○さんにこうしなさいと言われた」

 この○○さんというのが、母がその傘下についているX社の上位会員、いわゆる「アップ」と呼ばれる人物だった。

暮らしとモノ班 for promotion
プチプラなのに高見えする腕時計〝チプカシ〟ことチープカシオおすすめ20本
次のページ
マインドコントロールで家族が破滅