竜王挑戦権を獲得した佐々木勇気八段=2024年8月13日、東京都渋谷区の将棋会館
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 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2024年9月2日号より。

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 今期竜王戦、藤井聡太竜王(22)に挑戦するのは、佐々木勇気八段(30)に決まった。

「二人の対戦は、私にとっても、ファンの皆様にとっても、待ちこがれていた好カードのひとつでしょう」

 佐々木の師匠である石田和雄九段は、自身が経営する柏将棋センターのウェブページにそう記した。まさにその通りだろう。

「天才集団」と言われる将棋界にあって、佐々木ほど「天才」と呼ばれてきた棋士は、そう多くはいない。5歳のときから師匠の薫陶を受けた佐々木は2004年、小4で小学生名人戦に優勝。高1(16歳)には四段に昇段し、棋士に昇格。これは当時、加藤一二三九段、谷川浩司十七世名人、羽生善治九段、渡辺明九段に次ぐ年少記録だった。

 早熟の大天才の系譜に連なる佐々木が、若くして天下を取っていたとしても、誰も不思議に思わなかっただろう。しかしそこに、藤井というもう一人の大天才が、史上最年少の棋士として登場した。

 2017年、藤井はデビュー以来一度も敗れることのないまま、棋界新記録の29連勝を達成。その連勝を竜王戦決勝トーナメントで止めたのが、佐々木だった。

 2023年度、藤井は史上初の八冠を達成。年間史上最高勝率をうかがう勢いで勝ち続ける藤井を、NHK杯決勝で破ったのもまた、佐々木だった。

 今年10月に開幕する竜王戦七番勝負で、佐々木は初めてタイトル戦の舞台に立つ。

「戦前の予想は、やはり藤井乗りが多いのは言うまでもありません」「しかし、佐々木勇気八段にもチャンスがあると思います。勇気君の事前研究は凄いし、最近終盤粘りも出てきた」

 石田師匠はそう記している。努力を積み重ねてきた天才・佐々木が、ここで初タイトルを獲得しても、なんら不思議はない。(ライター・松本博文)

AERA 2024年9月2日号

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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