東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 岸田文雄首相が14日に自民党総裁選への不出馬を表明した。9月の総裁選で次の首相が実質的に決まることになる。すでにメディアは総裁選一色だ。

 出馬を取り沙汰されているのは11名。女性が3人、40代も2人いる。女性首相が誕生すれば初めてだし、40代首相も戦後初だ。

 20日に小泉進次郎氏が出馬の意向を表明した。氏は43歳。勝利すれば憲政史上最も若い首相となる。フランスのマクロン大統領やイタリアのメローニ首相よりも年少で、外交でも大きなアピールとなる。「変わらない日本」のイメージが変わるきっかけになるかもしれない。

 とはいえ、どこか虚しさが残るのも事実だ。岸田内閣は支持率低迷が続いた。裏金問題もうやむやになった。国民は怒っている。それなのに全てが総裁選という「ショー」で忘れ去られようとしている。

 そもそも総裁選は国の選挙ではない。自民党内の選挙だ。党員以外は参加できない。それなのに首相が選ばれる。メディアもみなそれを当然として報道している。しかしこれでは有権者に当事者意識が生まれるわけもない。

 やはり本来は政権交代が必要なのだ。与党と野党が選挙で政権を争ってこそ、国民が首相を選ぶことが可能になる。日本政治はそうなってはじめて正常化する。

 けれどもそんな正常化はあまりにも遠い。立憲民主党も代表選を控えている。しかし驚くほど話題になっていない。そもそも人材がいない。枝野幸男前代表の復帰が噂されているが、そんな後ろ向きの体制で女性総裁や40代総裁の自民党に太刀打ちできるわけがない。都知事選の敗北は大きな教訓だ。これから1カ月、総裁選の報道は自民党の格好の宣伝になる。立民の側でも対抗する変革を打ち出せないようでは、総裁選後の総選挙で大敗するだろう。

 国民はいまの政治にうんざりしている。けれども野党が機能しないなら与党の変革に期待するしかない。虚しいショーだと思っていてもお祭りに乗るしかない。にわかに賑わい始めた総裁選報道は、筆者にはむしろ日本政治の末期を示しているように感じられる。

AERA 2024年9月2日号

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東浩紀

東浩紀

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

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