崔真淑さん
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 岸田首相が、次回の自民党総裁選に立候補しないことを表明し、9月に自民党の総裁を辞任することが確定しました。今回は、欧米メディアにおける岸田内閣への評価と、今後の株式市場への影響について考察します。

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海外メディアからの岸田内閣への評価は?

 岸田首相が総裁選に出ないことは、海外でも話題になりました。その際、どのような報道をされていたかをみると、日本のメディアと違い、評価の高いコメントが散見されました。

例えば、

“Mr Kishida served more than three years as prime minister; only seven post-war leaders have lasted longer. He pushed through historic reforms to Japan’s security policies and proved a deft diplomatic operator. “

岸田氏は首相を3年以上務め、これを超えたのは戦後首相ではわずか7人だけだ。彼は日本の安全保障政策の歴史的な改革を推し進め、巧みな外交手腕を証明した。

 出所 The Economist 「Kishida Fumio, Japan’s prime minister, stand down」

“On defence, Kishida shifted Japan further away from pacifism and towards active military co-operation with the US; he raised defence spending to 1.6 per cent of the economy, a meaningful shift, although his successor will have to find the resources to sustain it.“

 防衛に関しては、岸田首相は日本を平和主義からさらに遠ざけ、米国との積極的な軍事協力にシフトさせた。彼は防衛支出を経済の1.6%と意味ある数字へと引き上げた。次期首相はそれを維持するための財源を確保する必要がある。

出所 Financial Times 「What Japan needs from its next prime minister」

 と、安全保障についてかなり評価しているコメントが目立ち、外交においても日韓関係のことを指しながら高く買っていました。更に気になったのは、岸田首相が培った安全保障における拡張政策を維持できる人物を暗に期待している姿勢です。

 次期首相の候補については、自民党の裏金疑惑(≒脱税疑惑)を忘れさせるほどのイメージを一新する人物が必要であるとして、若手や女性候補者をプッシュするコメントが目立ちました。

自民党総裁選で株価が動く?

  では、人気がある候補とされる女性や若手と言われる総裁選候補者の発言を見てみると、何が目立つでしょうか? 安全保障にも関係してくる憲法改正(自衛隊の明記)や緊急事態条項の重要性を謳う発言が目立ちます。

  以上のような欧米メディアの傾向(≒欧米が日本に求めるもの?)や、人気候補者の発言を見てみると、新しい総裁の元では更なる軍事投資や、NATOとの連携強化などが出てくるのではないかと見ています。となると、総裁選前後で軍事関連銘柄の動きが非常に活発になると推測されます。(私的には、イメージ一新で与党圧勝のためにも、もうあの人がなるのかなと勝手に想像しています……)

 ちなみに、日本は武器輸出ができないはずでは?と思う方も少なくないと思います。かつては「武器輸出禁止三原則」という政策が取られていましたが、2014年4月に新たな政府方針として「防衛装備移転三原則」が閣議決定され、一定の条件下で武器輸出の道筋がつけられました。さらにその後、運用指針が2回改定され、殺傷能力のある兵器の完成品の輸出が可能になるなど大幅に制限が緩和されています。株式市場においては軍事・防衛関連はホットなキーワードになりやすいのです。

 投資家としては、待ってました!というわかりやすい展開になるかもしれません。

 ただ、乳幼児を育てる1人の母としては、そうした世界に対する不安も拭いきれません。様々な弁護士会や弁護士連合会のコメントを見てみると、兵役義務が復活したらどうしよう……とも気になっています。欧米では男女平等の元に、女性にも兵役義務を課している国がふえています。

 大学生の頃の、ある一般教養の講義の時の言葉が、忘れられません。

「100年間、戦争をしなかった国は存在しないんだよ。」

 戦後100年を迎える前に、何もおこらず平和でいてほしいです。そして、平和だからこそ、株式市場でエンジョイできるチャンスが存在するのもの忘れずに過ごしたいです。

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崔 真淑

崔 真淑

エコノミスト。2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。16年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。18年より同大学の博士後期課程に在籍。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後に、「経済のスペシャリストの世界に触れたい」と、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)に入社。アナリストとして資本市場分析に携わる。当時最年少の女性アナリストとして、NHKなどの主要メディアで経済解説者に抜擢される。債券トレーダーを経験したのち、日本の経済リテラシー向上に貢献したいとの思いから2012年に独立。経済学を軸に、経済ニュース解説、経済・資本市場分析を得意とするエコノミスト・コンサルタントとして活動。

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