新刊書店などと違い、独特の世界観を醸し出す古本屋。「どんなルールがあるかわからないため、入ってみたいが勇気がない」という人も多いのでは?そこで、古本を愛しすぎる著者が基本的な“古本屋のお作法と流儀”を徹底レクチャー。これさえ読めば、古本屋に行くのも怖くない!?本稿は、岡崎武志『古本大全』(筑摩書房、ちくま文庫)の一部を抜粋・編集したものです。
初心者が知っておくべき
古本屋の作法とは
本を扱いなれていない人には、不思議に思えるかもしれないが、この話は本当です。私だってわかる。本をどれだけ愛し、幾千万冊の本を手のひらに乗せ、滑らせてきたかが、何げない所作に現れるのである。
楽器にたとえればわかると思うが、いつもその楽器を触っている人と、初めて持った人ではあきらかにそのたたずまいが違う。ミュージシャンで、平常はだらしなく、役立たずみたいに見える人が、ひとたび自分の楽器を持ったとたん、人が変わったようにシャンとし、ピタリと決まるところは想像するにたやすいと思う。
本もいっしょだ。本を扱いなれた人は、本棚の前に立って、ページをめくるとき初めてその人が格好よく見える。私もほかのことはてんで自信がないが、古本屋の本棚の前に立って、手に本を持たせればちょっとしたものだと思っている。
これだけは年季が違う。
長年、帳場から客を眺めてきた古本屋店主には、当然ながらそれがすぐわかるのである。
そこで、古本屋初心者でも、ビクビクしないで堂々と古本屋とつきあえる作法を指南したい。あくびの作法を教える「あくび指南」という落語があるが、これはその古本屋版。茶道のお手前と同じく、古本道にも作法がある。それをわきまえて、古本屋回りをしないと、いい客にはなれないし、店主ともいい関係を作れない。これは古本にかぎらずどの分野でも同じだ。
古本を濡らすのはNG
傘は畳んで入店せよ
まずは店の前に立ったとき。雨の日なら傘をまず畳み、水滴をよく切ってから、傘立てがあれば必ずそこへ傘を置くこと。本は紙でできている。紙は火と水が大敵だ。濡れた傘を腕にかけたまま店の中へ入ってこられたんじゃ、店主の心臓はいくつあっても足りない。
以下すべてに通用することだが、古本屋の商品である本はすべて返品不可能な、その店の財産なのだ。濡らしたり、傷めたりすると、買い取らない限り、それは強く言えば犯罪行為となる。よくよくこのことは肝に銘じておかねばならない。