2つのリスクの間をどうとるか
現金や預金はインフレリスクに弱く、実質的な価値は目減りしてしまう。一方、株式は価格の変動が大きい。そのため、災害などが発生し、緊急補修工事が必要で現金化する際、株価が値下がりしているリスクがある。
「この2つのリスクの間をどうとるか。最初は皆さん、『修繕積立金での資産運用はやったことがない』と、かなり悩んでいました」
最終的に、元本が毀損する可能性が極めて小さく、かつ利率が高いものは「高格付けの社債しかない」という結論にいたった。
1回あたりの上限は「約1億円」
「格付け」とは、債券の償還確実性を知るための指標で、「信用力が最も高く、リスクは限定的」な「AAA」から、「倒産など、すでに債務不履行に陥っている状態で元利の回収は不可能」な「D」まで、基本的に10段階で評価される。そして、「高格付け」を「A+以上」と定義した。
また、1回あたりの債券購入額の上限を約1億円と決めた。
「上限金額は『絶対』ではありませんが、例えば、ある会社の債券の利率がよいからといって10億円ぶんも買ってしまったら、何かあった際のリスクの分散ができなくなります」
長期修繕計画に基づいて、償還までの期間は「10年まで」と定めた。
売買ルールを規約に明記
18年1月、臨時総会を開催し、これらの売買ルールをマンション管理規約の「財務会計細則」に明記した。
「その後、社債を購入することへの反対やクレームは理事会が把握しているかぎり、ありません」
これまでに三井不動産、日本生命、三菱UFJ銀行、関西電力などの社債を購入してきた。利回りは年0.4~1.2%程度と、差がある。しかし、「どの銘柄を買うか」を話し合うことはないという。
理事会に資産運用のプロはいない
「普段、理事会に資産運用のプロはいません。あるのはルールだけです。それに則って、自動的に運用するのが最も費用がかからず、簡単なのです」
だが、もし誰かが購入する銘柄を決めたら、「なぜ買ったのか」と、後に問われることもあるのではなかろうか。
「理事会の誰かが決めるのではなく、財務会計細則に書かれたルールを証券会社に提示し、証券会社から債券販売の話があったら、選べる商品のなかで『一番利率のよいもの』を原則、機械的に買っていく。ただ、それだけです」
現在、武蔵小杉駅周辺には10棟以上のタワマンがそびえる。
「どのマンションも竣工からしばらく経てば、新築時のプレミアははげ落ちます。その後は、管理の『実力』で資産価値に差がついてくるのだと思います」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)