「定期預金はもったいない」
武蔵小杉駅のすぐ近くに59階建ての「パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー」が竣工したのは09年。794戸に約2000人が暮らす。
竣工の翌年、志村さんは管理組合の副理事長となった。当時は、修繕積立金は定期預金で運用していた。
国債に切り替え始めたのは13年で、同年7月に開かれた定期総会がきっかけだった。百数十人の組合員が集まるなか、1人の男性が、こう言った。
「修繕積立金は、今後15年ほどは使いませんよね。その間、定期預金のかたちで置いておくのはもったいない。あまり危ないことはしなくていいと思いますが、例えば、『国債』がありますよね」
この発言を聞いた志村さんは、ハッとし、「ああ、そうだな」と思った。
ただ、「微妙な時期だな」とも思ったという。
00年以降、長期金利は1~2%程度で推移していたが、13年4月に日銀は黒田東彦総裁(当時)のもとで大規模な金融緩和策に踏み出した。いわゆる「黒田バズーカ」である。これを機に金利は大きく低下していく。
資産運用のプロから見れば
それでも国債を買い始めた13年に、10年国債の利回りは0.7%前後。定期預金の利率は0.15%前後(1000万円以上、5年)だった。
しかし、なぜ志村さんらは管理組合が債券で資産運用をする際の定番「すまい・る債」ではなく、「国債」を選んだのか。
「資産運用のプロからすれば、『すまい・る債』も『国債』も同等商品です。すまい・る債のほうが『流動性』が高いぶん、利率が低い。それだけです」
「流動性」は、ひと言でいうと、「売買のしやすさ」である。
「元本がほぼ確保されている国債なので、購入に反対する組合員は誰もいませんでした」
国債の利率ゼロに「高格付けの社債しかない」
16年1月、日銀がマイナス金利政策を導入すると、国債の利率はほぼゼロになった。
17年夏、志村さんは「国債ではまったく利益が出ない」と、理事会で問題提起した。そして、「資産運用のプロ」を住民から募り、審議会を立ち上げることを決めた。すると、5人ほどのメンバーが集まった。
「証券会社や投資銀行の現役社員、OB、信託銀行の資産運用の専門家、ヘッジファンドをやっている人など、プロフェッショナルなメンバーがそろいました」
審議会では、「マンションの修繕積立金」を原資とした場合、とりうるリスクと収益性を勘案し、どのような金融商品を購入すべきかを検討した。