AERA 2024年8月12日-19日合併号より

 とはいえ、たとえば広島の会社の日常では広島弁が飛び交うのが自然な流れにも思える。そこでも「仕事たるもの標準語で」と気に留めておく方がいいのか。

「ふだんの言葉遣いがいざというときに出てしまい、相互理解に支障が出ることもあり得ます。ただ、方言を話題として良好なコミュニケーションが築けることもしばしば。『マナーは引き算』です。基本をおさえた上で臨機応変に振る舞いたいですね」

プレゼンの「飛び道具」

 異なる声もある。管理職研修の経験が豊富なマネジメントコンサルタントの濱田秀彦さんは、「基本OK」というスタンスだ。

「私は東京出身ですが、方言を交えて話す相手にコミュニケーションで違和感を持ったことはありません。以前、営業の部署にいたとき、関西出身の部下がお客さんに見積もりを仕入金額でファクスしてしまったんです。かなりシリアスなミス。でもそのとき彼が『やってもうたー!』と。私は叱れなくなっちゃった(笑)。場を和ます、不思議な効果があったことを覚えています」

 濱田さんは都内企業のプレゼンテーション研修で、関西から転勤してきていた20代の受講者から「私は関西人で、つい関西弁が出るのですがまずいでしょうか」と相談されたことも。

「問題ない、と伝えました。短時間に多くの人がプレゼンをするような場合、内容で印象に残すのが王道ですが、方言で印象に残るのもアリ。飛び道具として、むしろ使ったらいいと」

 方言もうまく使えば、むしろ仕事にプラスなのでは──。(編集部・小長光哲郎)

AERA 2024年8月12日-19日合併号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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