『イエスタデイ・アイ・ハド・ザ・ブルース』ホセ・ジェイムズ
この記事の写真をすべて見る

 これまでレーベル特集を連載してきましたが、今回から趣向を変え、現代ジャズ・シーンの新しい動向について、ライヴ・レビュー、新譜情報などとり混ぜながら、いろいろとお話して行こうと思います。今回はその第1回目として、2月15日に六本木『ビルボード東京』で見たホセ・ジェームスのライヴについてご報告いたします。

 結論から言うと、実に素晴らしいライヴでした。まずシンプルに楽しめる。ライヴというのはCDと違って、単に音楽を聴くだけではなく、ステージ・パフォーマンスを楽しむという要素が加わります。というか、本来音楽というものは演奏者と聴衆が場を共有して楽しむものでした。そうした音楽の原点をホセのステージは改めて実感させてくれたのです。

 マイクのカッコいい持ち方から始まり、全身を使ったステージ・アクションの切れが素晴らしいのです。そうした「視覚要素」が加わることによって、歌の表現がより的確にファンに伝わることをホセは実に良くわかっているのですね。

 とは言え、こうした見事な「身体表現」は意識すれば出来るというものではないでしょう。おそらくは彼なりの工夫・練習の成果なのだと思います。つまり技術的基礎があっての「カッコ良さ」なのですね。もちろんそれは歌唱テクニックにも言えて、マイクに声をどううまく乗せるかというような部分をも含め、実に周到な計算がなされているようです。まさに彼は「プロの歌い手」なのです。

 歌の内容に触れると、まずは声の魅力ですね。ソフトでマイルドでありながら、要所要所で爆発的に声をシャウトさせ歌にメリハリを付ける技はさすが。そしてもちろん歌の表現も文句なし。

 このライヴでの一番の見どころはサイドのドラマー、ネイト・スミスとの掛け合いでした。一部のマニアの間で知られた名ドラマー、ネイトは切れ味抜群のリズムで、本当に彼のドラミングだけを聴いていても実に気持ち良いのです。近年ジャズは改めてドラマーの重要性が取り沙汰されていますが、まさにその事実を実感させるドラマーがネイトなのです。

 そのネイトのドラムスのみを相手にしホセがラップを披露するシーンがあったのですが、これが素晴らしい。まさに即興の応酬なのですね。思わず私はバップ・エイジの華である、ジャズマン同士のアドリブ対決を思い起こしてしまいました。
 確かにホセの歌うレパートリーは従来のジャズ・ヴォーカルの範疇を超えた幅広いものですが、こうした場面はまさにジャズなのですね。というか、ホセにしろネイトにしろ、「ジャズ的センス」とジャズのテクニックが無ければ、こうしたスリリングな表現は不可能なのです。

 わたくしごとですが、昨年末小学館新書から上梓した新刊『厳選500ジャズ喫茶の名盤』で、新世代ジャズ・ヴォーカルの代表としてホセを紹介したのですが、彼の最新ライヴを見て、改めてその選択は間違っていなかったと確信いたしました。[次回3/28(月)更新予定]

■参考:ライヴ情報
http://www.billboard-live.com/pg/shop/index.php?mode=detail1&event=9746&shop=1

[AERA最新号はこちら]