新年のビデオメッセージを伝える天皇ご夫妻。コロナ禍の国民へ思いを寄せた(宮内庁提供)
新年のビデオメッセージを伝える天皇ご夫妻。コロナ禍の国民へ思いを寄せた(宮内庁提供)

 3千字ほどのボリュームもそうだが、決め手は「ディテール」。例えば「規則正しいご生活」の説明では、朝食後に美智子さまと寺田寅彦の『柿の種』を音読している、と明かす。夕方の散策では、「時には、道路を隔てたマンションの人々とも挨拶を交わされます」とする。できるだけわかりやすく、リアルに。その気持ちが通底している。

 退位までの活動も具体的かつ詳細に並ぶ。被災地への訪問回数、いつどんな場面で何を語ったか……。それがこの1年の感想とつながる巧みさ。お二人の国民への思いが呼び覚まされる。「上皇陛下」「陛下」という記述が9回、「上皇后さま」が10回、「両陛下」が4回。お二人は、まだまだ国民に語りかけたいのだ。そう実感させる、言葉の力。

総花的で優等生的

 美智子さまを「国民的スター」にした最も重要な資質は、発信能力。『皇后四代の歴史』(18年刊)でそう分析したのは、日本経済新聞の井上亮編集委員だ。

<(美智子皇后の)豊かな読書経験からにじみ出る卓抜な文章は強い訴求力を持っていた。国民に向けた明仁天皇のメッセージを補完し、ときには代弁する形で、(略)平成の象徴天皇が持つ良き面をアピールした。それは図らずも平成の象徴天皇の「報道官」の役割をはたした>

 今の皇室にほしいのは、「令和の報道官」なのだと思う。1日の陛下のビデオメッセージも、報道官がいればもう少し違った印象になったのでは、と思う。

 陛下と雅子さまの真摯な思いは伝わってきた。大半をコロナ禍にあてた。亡くなった人への哀悼、医療従事者らへの感謝、国内感染者の減少という明るい兆し、オミクロン株への懸念、海外でのワクチン不足、国内で生活に困っている人々……。

「今一度、私たち皆が、これまでの経験に学び、感染症の対策のための努力を続けつつ、人と人とのつながりを一層大切にしながら、痛みを分かち合い、支え合って、この困難な状況を乗り越えていくことを心から願っています」

 昨年に続き、最後は雅子さまの言葉で締めくくった。それが陛下の強い意志とわかるが、全体としては総花的、優等生的という印象だ。文字数は上皇さまの近況文書の半分ほど。陛下と雅子さまは生真面目で、「自分を出す=はみ出ること」と戒めているよう。長男&長女ゆえかな。と、私の勝手な想像だ。

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