ハノイ市内の送り出し機関で日本語を学ぶ技能実習生。面接から来日までの約半年間、寮生活で日本語のほか、ゴミの捨て方や交通ルールなど、日本の生活も学ぶ(写真:澤田晃宏)
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 日本へ出稼ぎする外国人労働者にとって、かつて日本で働くことは経済的メリットだったが、円安の影響で魅力が薄れている。日本に多くの労働者を送り出しているベトナムの現場を取材した。AERA 2024年8月12日-19日合併号より。

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 ベトナムに限らず、送り出し国の通貨に対し円安が進むなか、送り出し国は日本をどのように見ているのか。6月初旬、筆者はベトナムに渡った。

再訪した高級ホテル「F」5年間で客層が一変

 ベトナム人労働者が急増したのは、11年の東日本大震災以降のことだ。外国人労働者最大の供給国だった中国の経済成長により、日本で働く経済的メリットが薄れるなか、震災の影響で日本離れが進んだ。12年には中国国内で大規模な反日運動が起こり、送り出しの舞台が一気にベトナムに移る。

 12年末に約5万2千人だった国内の在留ベトナム人は、コロナ前の19年末には約41万2千人にまで増加。なかでも、開発途上国に技能と知識を移転する国際協力を目的とした「技能実習生」がその数を押し上げた。

 16年には中国を抜き、ベトナムが実習生最大の送り出し国となる。コロナ前の19年末には、実習生全体の53%を占める約21万9千人に達した。

 ベトナムに入り、ハノイ市内の高級ホテル「F」に向かった。筆者は19年にも、この場所を訪れている。

 当時、日本への実習生の送り出しビジネスが過熱。実習生を日本に派遣する送り出し機関は、求人票欲しさに現地面接に訪れる「監理団体」や受け入れ企業に対し、過剰な接待をした。

 受け入れ企業は実習生を直接採用できない。技能実習計画の監督などをする政府が許可を出した監理団体を通す必要がある。求人票は監理団体を通す形となるため、一部の送り出し機関は監理団体幹部に一人の採用ごとに1千ドル程度のキックバックを支払ったり、度を越えた接待をしたりした。その象徴的な場所がホテルFだった。

 ホテルFの地下に、女性が接待をする飲み屋がある。地階からエレベーターに乗り、上階の部屋に女性を連れ出すことができる買春ホテルだ。

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新規入国者数はインドネシアが増加