オンライン日本語教育最大手Rikiのオフィス内(写真:澤田晃宏)

「以前は採用予定者の3倍の候補者を集めるのが業界のルールだったが、今は2倍でも難しい」

 そして、同幹部はこう続けた。

「インドネシアやミャンマーに行けば、求める賃金水準がベトナムほど高くなく、数カ月勉強してきた多数の若者が面接に応募してくる。特にベトナムから2億以上の人口を抱えるインドネシアに切り替える企業が増えた」

 実際、コロナ前の19年に実習生として新規入国したインドネシア人は1万5746人だったが、コロナ後の22年には3万348人と倍増。一方、ベトナムは9万1170人から8万3403人に数を減らしている。

 すでに日本にいるベトナム人の考え方にも変化が見られる。オンラインで日本語の授業を提供するRiki(ハノイ市)では、約1万7千人(23年)が日本語のレッスンを受講する。その約6割は日本で働く実習生や19年に新設された単純労働分野で働く特定技能外国人だ。南雲忠国社長は話す。

「以前は実習生として3年働き、帰国後に賃金のいいベトナムの日系企業で働きたいと受講する若者が多かったが、円安の影響で期待していた額のお金を3年で稼げない。実習生は非大卒者が中心ですが、ベトナムの大学進学率が上がり、帰国しても待遇のいい仕事はない。ベトナムの物価も上がり、長く日本で働こうとする傾向が見えます」

 日本語力が上がれば、実習生でも前述の特定技能の試験を受け、賃金水準の高い外食業などの別職種に転職することができる。特定技能は最長5年間の「特定技能1号」と、在留期限のない「特定技能2号」があり、2号になれば家族帯同(配偶者と子)が認められ、永住権を目指すこともできる。

「日本国内にいる受講者は増加傾向にありますが、新たに日本を目指す人は減っている。ベトナム現地のオフラインの学校はコロナ前に11校ありましたが、現在は4校です」(南雲社長)

 ただ、円安の影響で以前より稼げない国となっても、ベトナム人の「現実的な出稼ぎ先」は日本と台湾だ。農村部を中心に、日本で働きたいという若者はまだまだいる。ベトナム海外労働局によると、海外派遣労働者数は日本が8万10人と最も多く、次いで台湾が5万8620人。この両国で全体の約9割を占める(23年)。

 現実的というのは、一定の採用規模があり、語学力などの高い入国要件が求められないということだ。(フリーランス記者・澤田晃宏)

AERA 2024年8月12日-19日合併号より抜粋