「それでもやっぱり、患者さんのためにとの思いで医療者を志した人たちなんです」と大久保はためらうことなく言う。職員たちの本当にしたかった医療、目指したい方向性を集約した理念の言葉は次のようにまとまった。
「患者様への理解に基づいた、心ある医療を提供します」
これを職員一人ひとりが自分の心の中に落とし込むことが、立て直しの第一歩となった。
タテとヨコの「チーム医療」を活発化
病院独自の理念を定義する議論がまとまるにつれ、実現への道筋が見えてきた。
キーワードは「チーム医療」。虐待事件の再発防止に欠かせないのは、個人を孤立させない組織づくりだと見据えた。
判断に迫られた時には職員一人に責任を負わせない。周りと話し合って決める。幹部は部下たちへの声かけを怠らず、いつでも相談に乗りやすい「縦軸」を太くする。
院内には、精神科医、内科医、看護師、臨床心理士、作業療法士、精神保健福祉士、薬剤師、管理栄養士……とさまざまな職種の職員がいる。それぞれの立場で知識や知恵を出し合い、コミュニケーションを高めて「横軸」を太くする。組織の縦横に血が巡るようになることが、職員の孤立を防ぎ、活力を生む好循環につながると考えた。
(敬称略)