トップダウンからツートップ体制に。組織の解体的出直しは運営の根幹を変えることから始まった。看護師らによる精神疾患患者への集団虐待が発覚した2019年の神出病院事件。職員たちは事件後、どのようにして理想の病院を作り直してきたのか。神戸新聞取材班による「黴の生えた病棟で ルポ 神出病院虐待事件」(毎日新聞出版)から一部を抜粋し、再生の道を報告する。
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※神戸市の病院で2019年に起きた虐待事件の実態や、精神医療体制の問題、渦中にあった病院が果たしてきた再生について4回に分けて報告します。今回はその4回目に当たります。
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神出病院では2021年6月に土居正典が新院長に就いて「解体的出直し」が始まり、3年を迎える。院内にまかれた「改革の種」はようやく芽吹きつつあるように見える。
私たちが神出病院内に初めて足を踏み入れたのは、土居新体制がスタートして1年4カ月になる22年10月だった。
事件発覚直後、敷地内を行き交う職員たちは下を向き、私たちと目も合わせようとしなかった。当時うかがい知ることができなかった病院の内部で、彼らは何を考えて働いていたのか。事件を経て、今、どこへ向かおうとしているのか。聞きたいことはたくさんあった。
直接職員に話を聞かせてほしいと、断られることは覚悟の上で記者が事務長の登隆一に取材を申し込むと、1週間後に「院内で検討を続けている」と連絡が来た。あまり期待をせずに待っていると、その約1カ月後に正式に返答があった。
今を見てほしい
「事件の報道では病院の職員全体が悪者になった。集団ごと責められた恐怖心が、職員にはまだ残っている」
登はそう前置きした上で、
「今の神出病院を見てほしい」
と応じ、さらには院内の見学も認めた。
事件のあったB棟4階から、女性専用のA棟4階へ移る。5メートル幅の広い廊下には開放感があった。「ちゃんとメンテナンスをしたら贅沢な造りの建物なんですよ」と合流した院長の土居が言う。フロアには、公衆電話が置いてある。患者たちが院内で携帯電話を使うことは禁止しているが、入院したら外部と連絡が取れなくなっていた事件発覚前の状態を改め、テレフォンカードを使って家族らとやりとりができるようにした。