誰に迷惑をかけるわけでもない、あくまで二人の間の問題だ。交際期間を含め、誰にも悩みを打ち明けたことはない。性交ができなくても、互いへの愛情に変化があるわけではなく、穏やかな日常を過ごしていた。
ところが、その誰にも言えない悩みが、A子さんが35歳の誕生日を迎えた頃から深刻味を帯びてきた。夫婦ともに「子どもが欲しい」という気持ちが強まっていたからだ。
街で子どもを見かけたら、「かわいいね」「うちも子どもがいたら楽しいだろうね」「私たちは……」という会話に自然となる。A子さんの後に結婚した友人も含め、同年代はベビーラッシュ。
子を持つ友人とランチをすれば「少しでも早く産んだ方が、子育てがラクだよ」、「35歳を過ぎたら妊娠率が下がるらしいから、早めに妊活を始めた方がいいよ」などと、悪気のないアドバイスが向けられる。「早く孫の顔が見たい」という親や親戚からの無邪気な声もプレッシャーだ。
そんな中、A子さんは「私たちは妊娠するステップの“入り口”にも立てていない」と焦りを募らせるようになった。
私たち夫婦のように「性交できない」という同じような悩みを持って妊活している人がいないのか、ネットで探したこともある。妊活のノウハウとして出てくるのは排卵日近辺に性交する「タイミング法」をはじめとした、性交ができる前提の情報ばかり。
「自分たちの状態がいかにマイノリティなのか、思い知らされたような気がした」
というA 子さんは同時に、年齢とともに卵子の老化が進むことや、タイムリミットという壁が存在することも知り、余計に焦りに火がついた。
「子どもが欲しいなら、性交ができるようにならないといけない」
思いが強まる中で、しばらく遠のいていた挑戦から、再チャレンジの日々が始まった。「何とかできるようになりたい」との一心で挑戦を重ねるも、どうしてもうまくいかない。このままだと時間が経つばかりで、自然に子どもを授かることは難しいままだ。