英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。
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英労働党のスターマー首相は、与党リーダーとして初めて臨んだ国会で、新政権は「国家再生の道」を目指すとしながら、「即効性のある解決策はない」と語り、「まがいものの魅力で人をだますポピュリズム」について警告を発した。
「生活費危機」で疲弊した国を再生させるには、貧困問題、特に子どもの貧困への取り組みが最優先だろう。いまや英国では4人に1人の子どもが絶対的貧困の状態だ。この窮状を生んだ原因の一つが、公的扶助の増額を第2子までとする上限の存在である。2017年に保守党政権がこの上限を導入したとき、労働党議員たちは激しく反対した。だから、労働党政権が誕生すれば、まずこの悪名高き上限の撤廃を行うだろうと期待した人は多かった。が、新政府の方針を国王が発表した「国王演説」には、それが含まれておらず、左派からの批判を浴びた。
スコットランド国民党(SNP)はすでに「国王演説」への修正を加えることを求めており、緑の党や自由民主党、北アイルランドの社会民主労働党、ウェールズのプライド・カムリに加え、労働党前党首で現在は無所属のコービン下院議員らもSNPの修正要求を支持していると報じられている。
スターマーの労働党は、イデオロギーを打ち出さないセントリスト(中道)を自負してきた。しかし、同じ中道でも、1997年に誕生したブレア政権は、子どもの貧困対策を大々的に打ち出し、喧伝もした。「保守党とは違う政治が始まるのだ」という印象を人々に与えるためにも、子どもの貧困を解消する具体的な政策が今回の「国王演説」に含まれる必要があったと思う。
ポピュリズムは「まがいものの魅力で人をだます」だけの現象ではない。反エリート感情や、庶民は政治に捨てられているという疑念が、それを生む土壌になっている。食事を抜いている家族を減らすために政府が本気になっている姿を見せることは、実はポピュリズムの伸長を防ぐ上で最重要なのだ。エリートに厳しく、庶民に優しく。その姿勢を新政府が具体的に示さなければ、近い将来、英国でもフランスのように、「右と左と中道」の三極化が起こり得る。
※AERA 2024年8月5日号