東海林:2016年ごろだったかな。そんな昔から知っていただいていたとは驚きです。

松下:僕は照明に対して何の知識もないですが、あのドキュメントを見て「明かり」というものが、日々の暮らしの中でどれだけ重要なのかと考えるきっかけになったんです。いつかお会いしたいなと、ずっと思っていたので、念願が叶いました。

東海林 そう言っていただけると、とてもうれしいですね。普段から明かりは意識していらっしゃるんですか。

松下:一人暮らしをするようになってからです。東京の、都会の明るさにまず驚いたんです。

東海林:ご出身は?

松下:八王子出身です。東京とはいえ田舎で、駅前は栄えているんですが、田んぼや畑など、自然あふれるところなんです。

東海林:私は大学生の時に八王子に通っていましたよ。工学院大学のキャンパスがあってね。

松下:八王子の田舎で生まれ育ったので、都会に対する憧れが強かったんです。

東海林:実際に都会に出てきて、どう感じられました?

松下:とにかく夜中でも明るいなあ、と。お店の明かりだけではなく、街灯の明かり、車のライトの明かり、道路に反射する明かりとか……。本当に些細なところにまで明かりがともっている東京にすごく感動したんですよね。中でも好きだったのが、二子玉川にあるショッピングモールの明かりでした。

東海林:おお!

松下:そこの照明を担当されたのが東海林さんだということを番組で知ったんですが、あそこの照明はあまり明るくないんですよね。「照らす」というより「灯っている」イメージで。田舎から出てきて、東京の夜景や商業施設の煌々とした明かりを見てときめく一方で、あの優しい明かりが、なんかものすごく好きになって。そのまま僕は二子玉川に2年くらい住んだんですよ。

東海林:このショッピングモールが好きで?

松下:そうなんです!

東海林:関係者が聞いたら、もうね、涙ですよ。

松下:当時24、25歳だったんですが、本当に貧乏役者でお金もなくて。お店に入ったところで、中の洋服屋さんの商品には手が出ないものも多く……。でも、あそこにいるだけで、ちょっと「自分は東京で頑張っているんだ」と思うことができた。当時の自分を照らしてくれたのが、そこの明かりだったんです。

東海林:本当に涙が出ます。いいことをおっしゃいますね。

松下:明かりって、ただ物や街を照らすだけでもなく、その人たちの暮らしを照らすものなんだなあ、と。

AERA 2024年7月29日号

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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