無名の観光スポット、着道楽の若者の部屋──隣にあるが見えていない光景を切り取った風俗写真で知られる編集者による、仕事の回顧録。約40年、本を作り続ける著者だが、一貫するのが自ら「現場に足を運ぶ」ことへのこだわりだ。過去、現代詩の連載を受け持った際には認知症老人のつぶやき、死刑囚の俳句など「詩壇の外側」の人々の声を好んで取り上げた。その際、たとえ相手が介護施設の中で、会話ができなくとも、「とりあえず会ってみる」ことを大切にしたと話す。他にもインテリアデザイン、音楽など手がけてきたジャンルはどれも「部外者」だったとの姿勢は崩さない。手間がかかっても働き続けたのは、その道の研究者が動かなかったため、すなわち「専門家の怠慢」との一言が痛切だ。
 60歳になった現在は、メールマガジンの発行を精力的にこなす。取材が好きで編集者になった限りは「いつも現場に出ていられるように、自分でメディアを作った」。手間を省いたまとめ記事がネット上で量産される現在の状況に、強烈なパンチを食らわせる一冊。

週刊朝日 2016年2月12日号

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