ペンギンって、いるだけで可愛いですよね。『ペンギン』という固有名詞は世界中で通じ、生きもの界で好感度ナンバーワンと噂されています。なかでも日本人のペンギン好きは有名! 世界中で飼育されているペンギンの、なんと4分の1近くが日本の動物園や水族館にいるのだとか。南極で集まってヨチヨチ暮らし、鳥なのに飛ばず、見た目ツルツル・・・そんなラブリーなペンギンたちには「可愛がられてなかった」知られざる過去があったのです。

フンボルトペンギン
フンボルトペンギン
この記事の写真をすべて見る

ペンギンが愛される理由は「人っぽい」ところにあるようです

日常的に直立二足歩行する生きものは、人間とペンギンしかいません。翼(フリッパー)は腕のよう。
1930年にセイモア島で発見され『人鳥』と名付けられたペンギンの化石は、立ち上がると身長が1.52〜1.7メートル、ほとんど「人と同じ背丈」であったと考えられています。人間が出現するずっと前から地球上にいた「飛ばない鳥」たちは、まず各々の生息地で人間に出会い、様々な名前で呼ばれてきました。それが、16世紀になって『ペンギン』という名でくくられるようになったようです。
ペンギンは、並んでヨチヨチ歩きます。足が思うように高く上がらないらしく、小さな坂を登るのもたいへん。そしてよくコテッと転びます。直立二足歩行仲間である人間としては、「おぼつかない!危なっかしい!守ってあげたい!キュン!」と保護本能がくすぐられてしまう姿です。さらに、日本の「かわいい」に通じる「いつまでも大人化しない自分の姿」を重ね合わせて見る「幼形成熟」の嗜好からもひきつけられているという説も。
大きな英和辞典にはペンギンの項に『宇宙服』『宇宙飛行士』と出てきたりするそうです。「歩きにくい服」つながり、ということでしょうか。
そんなペンギンの服(皮)は やっぱり、分厚い脂肪層・皮膚・空気層・羽根と重ねた断熱効果抜群の防寒着でした。昔、海上でペンギンを目撃した船乗りたちが「鳥と魚が混ざったもの」「イルカやアザラシの変種」と思ったくらい、水に濡れた羽根はウロコや毛皮のように艶やかでツルツル。飛ぶ鳥とは形が違う羽根が小さくびっしりと生えていて、水に濡れるとカギ状の突起がお互いに絡み合い、まるで全体が一枚のやわらかい布のようにつながるしくみになっているのです。陸上では、羽根を立てたり寝かせたりして体温調節。尾羽根の付け根にある皮脂腺から出る脂をクチバシですくいとっては 絶えず体の表面に塗りつけて、さらに保温力をアップさせています。

大量のペンギンがオイルを搾り取られ・・・

キングペンギンともなると、全身を覆う皮下脂肪の厚さは2センチにもなるそうです。このペンギンたちの脂が、燃料として使われた時代がありました。
油っぽい太った海鳥の体は、それ自体よく燃えます。肉と内臓を取り除いて大量に燃やせば、高価な石炭や薪の節約になったのです。『ペンギン・オイル』は、クジラやアザラシに比べると質がワンランク下とされていましたが、皮なめしや 灯油・石鹸の材料としても使われていたようです。
さらに大きな利益を産む「資源」として、ペンギンが乱獲されていたことはあまり知られていません。おもにイワトビペンギン、 ジェンツーペンギン、キングペンギンなどが犠牲になりました。
一羽のイワトビペンギンからは0.5リットル、上手にやれば8羽で1ガロンの油が採れたといいます。1867年には、ある業者が40万5600羽のキングペンギンから23万500リットルもの油を搾り取り大金を手にしました。「ペンギン・オイル産業」が栄えた16年間で、なんと約500万羽が犠牲になり、イワトビペンギンの6つの島の繁殖地が全滅し、他のコロニーも大打撃を受けたのです。
ペンギン・オイル産業は1930年代までの間に終焉し、20世紀に入るとペンギンや南半球の海獣類を保護するための法律が次々に制定されていきました。いまでもフォークランド諸島などではペンギンから油をとるための釜を据え付けた作業小屋が島のあちこちに残っているそうです。
飛んで逃げることもなく、人なつっこいので簡単につかまえることができるペンギンの習性が、「愚かな生きもの」として利用されてしまった歴史・・・絶滅が心配されているペンギンたち。大好きなペンギンとの関係がハッピーなものであり続けるように、人間も努力したいですね。

イワトビペンギン
イワトビペンギン

<参考>
『ペンギンは歴史にもクチバシをはさむ』上田一生(岩波書店)

暮らしとモノ班 for promotion
台風シーズン目前、水害・地震など天災に備えよう!仮設・簡易トイレのおすすめ14選