たうち・まなぶ/1978年生まれ。金融教育家、お金の向こう研究所代表。東京大学大学院、ゴールドマン・サックス証券を経て執筆活動に。前著に『お金のむこうに人がいる』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など(撮影/写真映像部・佐藤創紀)
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 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【写真】『きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』はこちら

 ひょんなことで知り合った中学2年生の少年優斗と投資銀行に勤務する七海が、ボスと呼ばれる大富豪のアドバイスのもと、お金の謎を解きながら社会のしくみを学ぶ物語。経済の知識のない子どもはもちろん、十分な知識を持っているはずの大人でも、お金の本質とあるべき社会の姿に気づかされ、心を揺り動かされる一冊だ。「読者が選ぶビジネス書グランプリ 2024」総合グランプリを受賞した『きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』の著者である田内学さんに同書にかける思いを聞いた。

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「お金自体には価値がない」

「お金で解決できる問題はない」

「みんなでお金を貯めても意味がない」

 これは本書で、主人公の少年たちが解き明かそうとするお金に関する三つの謎だ。どれも荒唐無稽にみえるが、本書を読めば確かにどれも真実だと納得できる。「すべてではないにしろ、お金があればだいたいの問題は解決できる」という考えは、共同体で生きる私たちにとって正解ではないことを痛感させられるのだ。

 著者である金融教育家、田内学さん(45)は、ゴールドマン・サックス証券の金利トレーダーを41歳で退職し、作家に転身した。資本主義のど真ん中で過ごすうちに、強烈な課題意識を持ったからだ。

「たとえば『老後2千万円問題』を契機に、多くの人が手元のお金を増やすことばかりにとらわれてしまっています。でも、お金は移動しているだけで、社会全体では増えることはなく、将来不安の根本的な解決にはなりません」

 問題の根幹には、少子高齢化がある。いくら個人レベルで老後資金を用意しても、現役で働く人が不足しては十分なモノやサービスの提供を受けることはできない。手元にお金さえあれば一人でも生きていけると思うのは間違いだと田内さんは言う。

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