国連の幸福度ランキングで7年連続1位を獲得している国、フィンランド。国境をロシアと接しており、2023年、NATOに加盟した。現地を訪ね、安全保障と徴兵制を取材した。AERA 2024年7月15日号より。
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建造物に隠れながら移動してきた陸軍近衛猟兵が、茂みをほふく前進して銃を撃った。機銃は空砲だが、強烈な破裂音が響く。
司令官のマッティ・ホンコ陸軍大佐に「耳当てをしないと鼓膜が傷つく」と言われ、慌てて耳当てをした。戦車の大砲音が鳴り響き、音とともに建物内に兵士が突入していく。砂埃が舞い、兵士の叫び声が聞こえる。敵役がいた建物を制圧したようだ。
5月28日、フィンランド・サンタハミナ島で有事を想定して行われた軍事演習を見学した。
演習後、プレスの案内役を務めていた近衛猟兵ローガン・ヴィクトロンさん(21)が気さくに話しかけてきた。
「同年代だよね。私、日本のアニメ好きなんだ、『呪術廻戦』ってわかる?」
「もちろん」と答えると、ローガンさんは目を輝かせた。
「一番好きなのはSatoru Gojoさ! かっこいいよね!」と言って、「領域展開」ポーズを決めてくれた。
フィンランドは徴兵制を導入している。男性は満18歳の誕生日を迎える年の1月1日から兵役招集の対象となり、女性も志願すれば参加できる。
ローガンさんは、アメリカ・サウスカロライナ州出身で、子どもの頃からアメリカで暮らしていた。母親がフィンランド人でローガンさんもフィンランド国籍を持ち、兵役の義務がある。
「大学進学とか、人生で大切なことがある場合は兵役を遅らせることができる。私は大学で学位をとってから、昨年の7月から兵役に就いた」
必要な知識つけたい
兵役の期間は、165日、255日、347日のいずれか。はじめの半年間は、銃の組み立て、扱い方など、いわゆる基本の“歩兵術”を学ぶ。ローガンさんは当初、「最短の165日で兵役を終えるつもりだった」という。