スマホを耳に早足で歩きながら話していた目黒蓮が立ち止まった。大映しになったその顔、表情だけが、画面を占めつづける。驚き、怒り、哀しみ、後悔――そしてひとしずく、目からこぼれて頬を伝う涙。
いや、そこにいたのは目黒蓮ではない。「月岡夏」だった。
「海のはじまり」初回の試写が終わった会場には静けさだけが満ちていた。瞳に涙をためたまま、身動きも、もしかしたら息さえも止めた人々は、物語に入り込んだまま抜け出せず、その世界に生きる登場人物たちと同じように言葉を失っている、そんな印象を受けた。
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目黒蓮が「月9」初主演を果たすフジテレビの夏ドラマ「海のはじまり」。2022年秋に放送され、TVerの見逃し再生回数合計7300万回超という史上最高を記録し、社会現象とまでなったドラマ「silent」のチームが、その撮影当時からあたためてきたというオリジナル作品だけあって、注目を集めている。
今作のテーマは、親子の愛だ。
目黒が演じるのは印刷会社で働く28歳の青年、月岡 夏(つきおか・なつ)。つきあって3年になる百瀬弥生(ももせ・やよい/有村架純)がいるが、大学時代に一方的に別れを告げて自分の前から姿を消した南雲水季(なぐも・みずき/古川琴音)の訃報に触れて参列した葬儀で、7年前に生まれていた自分の娘・海(うみ/泉谷星奈)の存在を知ることに。突然自分の人生に現れた海との関係をはじめ、親子のあいだに生まれる感情を描く作品になるという。
6月28日、初回試写の直後に行われたトークイベントに、「さっきまで撮影していました」と役衣装のままで現れ、ドラマの世界からそのまま出てきたような佇まいの目黒は、「いままでいろいろな役を演じさせてきてもいただいたなかで、夏くんというキャラクターがいちばん共感できるような、いちばん気持ちがわかるような気がする」と言う一方で、「でもいちばん難しいところにいるなというような感覚」だと語る。
「夏くんとして時間を過ごすことが多いので、命についてだったり、そういうことを考える時間が増えたなって感じています」と明かし、「この作品を通して 命とか家族とか、そういったいろいろなことを考えたり感じたりして、みなさんの人生がいい方向に進むような影響を与えられたらいいなって思っています。約3カ月、『海のはじまり』を最後までみなさんに見届けていただけたらうれしいです」とメッセージを告げた。