裏千家の初釜の茶事では、「花びら餅」という美しいお菓子をいただきます。このお菓子の中には、甘く煮た牛蒡(ゴボウ)が包まれています。このユニークな和菓子の由来が、平安時代まで遡ることをご存じでしたか?茶道のいろはも一部合わせてご紹介しましょう。
この記事の写真をすべて見る初釜の茶事は1月10日ごろ。茶事と茶会、濃茶と薄茶の違いとは?
新春の行事が続く中、茶道では10日頃に「初釜」の茶事が行われます。茶事とは、少人数のお客様を招いて懐石料理をさしあげ、濃茶(こいちゃ)や薄茶(うすちゃ)を点て、もてなす会のことをいいます。いわば、料理とお茶・デザートのフルコースですね。ちなみに茶道でいう茶会は、人数に関係なくお菓子と薄茶などで茶を楽しむ、略式の気軽な会のことです。
では、濃茶と薄茶はどう違うのでしょう?濃茶は、お客様の人数分の抹茶を一つの茶碗に練った、濃い抹茶です。一杯のお茶を、参加者で順に飲みます。コーヒーでいえば、お茶のエスプレッソといったところ。とろっとした苦味と、素晴らしいコクと香りを味わえます。
薄茶は、お抹茶と聞くとイメージするような、泡の立ったお茶になりますが、流派によっては泡を立てない場合もあります。濃茶より幾分薄く、コーヒーでいえば、ブレンドやアメリカン。一人につき一杯をいただきます。
京都の初釜のお菓子・花びら餅は、雅な季節限定品
初釜とは、年初めの茶事のことです。初めて釜をかけるから初釜ですが、新年の挨拶会や稽古始めの意味もある、茶人にはとても大事な行事になります。その初釜でいただくお菓子で有名なのが、「花びら餅」。お正月のおめでたい時期だけのもので、特に裏千家の初釜で登場します。少し前までは、京都以外ではなかなか手に入らなかったという、まさに季節限定、エリア限定の品でした。
花びら餅は、花弁餅、花片餅とも書き、別名で菱葩餅(ひしはなびらもち)とも。紅色が白い餅に透けて、なんとも雅なお菓子ですね。製法は、白餅を丸く平らに延ばして赤い小豆汁で染めた菱形の薄い餅を重ね、中に甘く煮たふくさ牛蒡(ゴボウ)を白味噌の餡にのせて、半月型に仕上げたもの。お店によって多少のバリエーションがありますが、甘さの中に塩味をもつ味噌餡や牛蒡の香りが調和された、素晴らしい風味のお菓子です。しかし何故、中に牛蒡が使われているのでしょうか?
花びら餅の由来は、平安時代の歯固めの儀式?
花びら餅に関しては諸説ありますが、平安時代の新年行事「歯固めの儀式」を簡略化したものが由来といわれています。齢を固めるために押し鮎などの堅いものを食べて、健康と長寿を祝う行事でした。鮎は「年魚」とも書くので年始にふさわしく、お供えに用いられたと、『土佐日記』にも記されています。
この風習が、やがて鏡餅に押し鮎、ダイコンを添えた御所鏡となったようです。そしてさらに簡略化され、宮中雑煮と呼ばれた餅の中に食品を包んだものが配られるようになります。牛蒡を押し鮎に、餅と白味噌餡を雑煮に、それぞれ見立てているのです。京都のお雑煮は白味噌仕立てであることを考えれば、お雑煮と花びら餅との関係にも納得が行きますね。
花びら餅は、明治時代に裏千家十一代家元玄々斎が初釜で使うことを許可され、新年のお菓子として、全国の和菓子屋でも作られるようになりました。
気軽に味わう和のスイーツも楽しいですが、静かな茶室で花びら餅の由来を辿りつつ抹茶とともに味わえば、格別な体験となることでしょう。今年は、少し襟を正したお茶の飲み方も、探求していきたいですね。