この大きな提灯が虎ノ門横丁の目印。レトロでありながら現代的なデザインが秀逸。
購入したワインを店舗に持ち込める「虎ノ門横丁セラー」。店舗の広さが限られているため大きなワインセラーを備えることが困難な店が多く、“各店舗共用のワインセラー”としても機能。
横丁の真ん中に設置された「寄合席」。少人数客でも使いやすいように机の形をリニューアルしたり、寄合席用のメニュー表の素材を色々変えてみたりと試行錯誤は続いている。
虎ノ門横丁内には実は蒸留所が!「虎ノ門蒸留所」では「東京でつくる、新しい日常酒 TOKYO LOCAL SPIRITS」をコンセプトにさまざまなジンを製造・販売。「店が広いので、グループで来ても入りやすいですよ」と吉田さん。
東京の横丁をもっと知ろう〈知新編〉
虎ノ門横丁が目指すのは
“食”を通じてアイデアが生まれる場
東京・虎ノ門というビジネス街に、新たな風景と人流を生んだ「虎ノ門ヒルズ」。2014年から2023年にかけて建てられた4つの高層ビル群は、オフィスだけでなくショップや飲食店まで幅広く揃う場所でもあります。
そんな虎ノ門ヒルズの中には、なんと“横丁”があるんです。それが2020年に開業した「虎ノ門横丁」です。26店の飲食店が並び毎日多くの人で賑わうこの虎ノ門横丁、実は新しい商業施設ではまず見ないさまざまな仕掛けがあることを知っていましたか?
この記事では、開発を手掛けた森ビル・吉田誠さんと、空間設計を担当したSUPPOSE DESIGN OFFICE・吉田愛さんに、「どうやって虎ノ門横丁が生まれたか」、誕生秘話をお聞きしました。
吉田 誠さん
森ビル株式会社
虎ノ門ヒルズ商業運営室
室長
1994年 森ビル株式会社入社 財務部、人事部を経て2000年より商業施設事業部。2014年から虎ノ門ヒルズの企画・運営に携わり、2023年より現職。
ビジネスアイデアは
“食”から生まれる!?
そもそも、虎ノ門ヒルズという街のコンセプトに掲げられたのは「グローバルビジネスセンター」。しかし、なぜビジネスセンターなのに“横丁”なのでしょう? そこには、虎ノ門ヒルズを手掛ける森ビルが開発時に思い描いたビジョンが大きく関係していました。
「ただオフィスという単一機能があるだけではなく、そこに住まう人もいれば、人々が憩う広場もある。エンターテインメントや食、さらにはショッピングもできる。それが森ビルの考える“グローバルビジネスセンター”なんです。いろいろなモノやコトが一箇所に揃うことで、ここがビジネスハブとなり、新しいアイデアやイノベーションが生まれる。そんな場所を目指すためには、“食”は重要なファクターのひとつではないかと考えました」
そう語るのは虎ノ門ヒルズ商業運営室室長の吉田誠さん。“食”にはコミュニケーションを促す機能がある。だったらさまざまな食のシーンのバリエーションを揃えることで、より多くのビジネスアイデアが生まれるかもしれない。こうした発想から、食を通じてコミュニケーションが生まれる場所を作れないだろうか?と、吉田さんたち開発チームが目をつけたのが「横丁」でした。そうやって、虎ノ門横丁の企画はスタートしたといいます。
「東京の食」がここにある
そう言える名店が揃う
虎ノ門横丁が他の「新たな横丁」と大きく違うのは、その店舗ラインナップ。年間600〜700軒を食べ歩く「タベアルキスト」として知られるマッキー牧元氏をアドバイザーに迎えた虎ノ門横丁には、これまでは商業施設に出店することはまずなかった東京の名店や、食の世界で注目されている新進気鋭の店がずらりと顔を揃えています。
「これは『どうやったらこの虎ノ門横丁という場所の価値を上げられるか?』ということにも通じるのですが、この場所を作るにあたり、『食の本質』や『文化』をきちんと伝えられる場所にしたかったんです」
個人の店主が食に対して確固たる信念やポリシーを持ついわゆる「名店」は、人気が高いだけになかなか予約が取りづらく単価も高いため、若い人は足を踏み入れづらい。しかし、そういった店の持つ「本物」の魅力を伝えられるような場が作れないか? そんな思いを形にしたのが虎ノ門横丁だといいます。
本店ならコースで1〜2万円はするような店でも、虎ノ門横丁ならドリンク1杯とおつまみ数品でサクッと飲んで帰ることができる。もちろんハシゴ酒をしてもいいし、おいしかった場所で腰を据えて飲んでもいい。気になったら本店を訪れてみるのもいい。何よりも重要なのはすべての店が「おいしい」こと! 例えば海外からのお客さんも、ここに来れば「東京のおいしいもの」を一気に味わうことができる。最終的にできあがったのはそんな場所だといいます。
横丁の“居心地の良さ”と
“大人の贅沢”を備えた場所
虎ノ門横丁には、コミュニケーションがより生まれやすくなるようなさまざまな“仕掛け”があります。たとえば、軒の低さ。最近の商業施設は天井が高く開放感があるデザインがトレンドですが、虎ノ門横丁はどのお店もあえて軒が低めにデザインされています。
「『横丁を作ろう』となったとき、都内にある昔ながらの横丁をあちこち訪れてみたんです。人はなぜ横丁に集まるかというと、居心地がいいからですよね。なぜ落ち着くんだろう? と考えた結果、軒の低さがポイントではないかなと思ったんです」
空間設計を手掛けたSUPPOSE DESIGN OFFICEとの二人三脚で完成した「虎ノ門横丁」は、スタイリッシュでありながらも、ビル内にあるとは思えないほど“横丁感”があふれる場所となりました。
また、一般的な商業施設の飲食店ではなかなか見かけないシステムもたくさんあります。いろいろな店舗の料理を持ち寄ることができる「寄合席」、お手頃な価格で料理が楽しめ、次の店へとハシゴしやすい「はしごカウンター」、お店に持ち込めるワインを購入できる「虎ノ門横丁セラー」。そのほかにも心置きなく飲み歩きたい人のためにコインロッカーを完備するなど、酒飲み&食いしん坊にはありがたい至れり尽くせりの設備が備わっています。
「通常はハシゴできないような店をハシゴしたり、自由にワインを選んで持ち込めるといった、“大人の贅沢”をぜひ楽しんでいただきたいです」
開業から4年、コロナ禍真っ只中での開業という逆風を乗り越え、現在は本来の賑わいを取り戻した虎ノ門横丁。すっかりこの場所のファンとなり、全店制覇したという猛者も次々に現れているそうですが、虎ノ門横丁はいまだ“進化中”だといいます。
「よりよい横丁にしていくために、今も定期的に関係者で打ち合わせを行い、お客さまに満足していただけるよう、毎回新たなアイデアを出し合っています」
現在の盛況に甘んじることなく、イベントなども頻繁に行い、訪れるたびに新鮮な楽しさを届けてくれる虎ノ門横丁。今後もどんなワクワクを届けてくれるのか目が離せません!
吉田 愛さんインタビュー
「横丁」とはなにか?を
新たに定義づけ、落とし込む作業
虎ノ門横丁は、スタイリッシュでありながら居心地の良さも兼ね備える、不思議な魅力を持つ空間です。その実現には、横丁そのもののデザインが大きく関わっています。空間設計を担当したのは、SUPPOSE DESIGN OFFICEの吉田 愛さん。話題の施設を数多く手掛けてきた吉田さんが、虎ノ門横丁に込めた思いとは?
吉田 愛 建築家 /代表取締役
1974年広島生まれ。 SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd.共同主宰。広島・東京の2カ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設など国内外で多数のプロジェクトを手がける。JCDデザインアワードなど多数受賞。主な作品にNOT A HOTEL NASU、ONOMICHI U2 、千駄ヶ谷駅前公衆トイレ、松本本箱など。近年では絶景不動産や社食堂等の新規事業のプロデュース・経営総括を担う。2021 年、新たに空間プロデュースやインテリアスタイリングを事業の核とする「etc inc.」を設立。2023年、広島本社の移転を機に商業施設「猫屋町ビルヂング」の運営もスタートと同時に「yacone」というアイスクリーム事業もスタートするなど事業の幅を広げている。建築を軸に分野を横断しながら活動している。
「東京の名店を集める」というこの虎ノ門横丁のコンセプトを聞いたときにまず私たちが提案したのは、ひとつひとつの名店だけではできないような“なにか”が起きたら面白いのでは?ということでした。思い浮かべていたのは、美食の街として知られ、観光客が名店をホッピング……、日本風に言うと「ハシゴ酒」しながら飲み歩くことで知られる、スペインのサンセバスチャンです。そこで「はしごカウンター」などが備わった現在の形を提案したんです。お店に行くだけでなく、そうした体験を演出できる場所であってほしいなと。
また、「横丁」を横丁たらしめているものはなにか?ということも考えました。ただ表層的に、単に懐かしそうな照明や内装だけではなく、「横丁らしい体験」というものを設計しなければいけないなと。そのために、休日や出張先でもいろいろな横丁を訪れ、メジャーやレーザーの距離測定器で街のサイズを測って回り(笑)、結果的には「道幅」も重要だなという結論に達したんですね。そのため、虎ノ門横丁は1.6mという商業施設ではまずありえない道幅となっています。また、今回出店された店舗にも打ち合わせで伺ったんですが、そこでも発見は多かったです。例えばカウンターが狭いので、お客さんに飲み物や食べ物を出してもらわなくてはならないお店もあるんですが、そういった狭さや不便さがコミュニケーションを生んでいるんですよね。新たな店舗づくりのなかで、それらは大きなヒントになっていきました。
私は「空間」でできることはあくまでも体験のなかの一部であり、お店の方たちとお客さんと食べ物、それらがあって初めて空間が成立するものだと思っています。オープンして4年経ちますが、そういう意味では虎ノ門横丁は、人と人が連携しながら「場」を育てている感じがすごくあります。2024年6月には開業4周年記念で「虎横祭(とらよこまつり)」というイベントが行われたんですが、私も訪れたら法被(はっぴ)を着せられまして、すごく楽しませてもらいました(笑)。私自身も、見に行くのがとても楽しみな場所となっています。
東京の新たなビジネスと観光の場でありながら、人と人とのつながりを生み出す場所。そこからどんなものが生まれてくるのか、どんな風景を見せてくれるのか、これからもワクワクしながら楽しみにしたい……。虎ノ門横丁は、そんな場所といえます。東京にはこうした出会いが織りなす、楽しくて心躍る魅力的な場所がまだまだいっぱいあります。楽しむ準備ができたら、気負わずに足を踏み入れてみてください。
虎ノ門横丁
2020年6月に、虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー3Fに開業。焼き鳥、中華、エスニック、スイーツなど幅広いラインナップの名店26店舗が揃うだけでなく、虎ノ門ヒルズ駅直結というアクセスの良さ、酒屋のカウンターでお酒が飲める角打ちからクラフトジンの蒸留所まで備える懐の広さが魅力です。
- 所在地東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー 3F
Google Maps - アクセス日比谷線虎ノ門ヒルズ駅B4出口から徒歩0分
- 営業時間11:00〜23:00
※店舗ごとに異なります。店舗に直接お問い合わせください。 - HPhttps://www.toranomonhills.com/toranomonyokocho/
・未成年者の飲酒は法律で禁じられています。お酒は20歳になってから。
・妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。
・飲酒運転は法律で禁止されています。
・飲みすぎに注意、お酒は適量を。