掲載までは少し時間がかかった。人選も難しかった。編集部内には「活動中のアーティストを論じるのは適切なのか」「ピークを過ぎた一歌手にすぎないのでは」といった異論もあったという。
「議論の中で改めて感じたのは、沢田研二の『文化の革新者』である側面が、正当に認識・評価されていないということ。落下傘を背負って歌うといった演出の記憶が強烈で、奇矯なことをしていたパフォーマー、という印象だけを持っている人もいた。でも、その軌跡を追ってゆけば、彼が新しい価値観を生み出してきたことが分かる。例えば男性が化粧をするとか、スター男優同士がメジャー映画でキスシーンを演じるとか、それまでの日本では『とんでもない』と思われていたことを大衆に突き付け、カリスマ性と魅力と表現力で説得してしまった。それは、沢田研二という船が時代の先端を行くクリエーターの才能を乗せて進んだから可能だった。そうしたことはもっと語られるべきだと思った」(山口さん)
そして、こう続ける。
「そうした視点で多角的に取材し、総合的に読み解いたのは、企画にもご登場いただいた島﨑今日子さんの『ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒』(文藝春秋)がほぼ初めてではないでしょうか」
坂本龍一と忌野清志郎より早かった
島﨑さんは「耕論」で、「『ジュリー』を通して、戦後の日本社会を考えることができると思います」と語っている。
1948年生まれの沢田研二は団塊世代だ。はちきれる高度経済成長の空気を胸いっぱいに育ち、数をパワーに新しい文化が次々と生まれた時代。同じ48年生まれは五木ひろし、井上陽水、糸井重里、泉谷しげる、上野千鶴子らだ。
「沢田さんはトップランナーですよね。旧世代を挑発するかのように、化粧したり、女のような扮装をしたり。ショーケン(萩原健一)らと組んだPYGの時にステージでしたキスのまね事なんて、坂本龍一と忌野清志郎より全然早いし、よく比較されるデヴィッド・ボウイと同時期ではないでしょうか。音楽そのものもファッションもステージングも、非常に先駆的だった」
島﨑さんは、そう評する。