元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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先日、あるモノとのお別れがあった。
6年ほど愛用し続けていた布カバン。友人に「使わないから」と頂いたもので、トートタイプだが持ち手が長めで斜め掛けできるので、自転車生活にはベストマッチ。定期的に洗濯しながらほぼ毎日、行動を共にしてきた。
だが数年前からポケットや角の部分が破れ始めて危うく入れたものを落としそうになり、「カバンとしてどうなんだ!」という事態に。だがもはや相棒とも言える存在ゆえどうにも別れ難く、当て布をして修繕しながら使い続けてきたんだが、ついに肝腎要の持ち手が千切れる寸前となるに至り、ここまで来れば「天寿を全うした」ということであろうと泣く泣く、しかしある種すっきりした気持ちでお見送りを決意したのでありました。
ここまでカバンを「使い切った」のは初めてである。消費生活に狂っていた会社員時代は、今使っているカバンが古びてもいないうちから新しいカバンが欲しければ次々買うのが普通だった。会社を辞め暮らしを小さくしてから「今あるものがダメになったら買う」という新習慣が生まれたのだ。