高さで劣っても、相手のパワーを逆手にとって流しクイックで攻める。柔道の柔よく剛を制す技に近い。頭脳プレーが多く、最近はシュート数も増えた(撮影/小黒冴夏)

16年ぶりの優勝に涙「みんなの願いが実現した」

 激しいつば迫り合いを制したのは富士通だった。試合終了のブザーが鳴った瞬間、16年ぶりの勝利に選手たちは欣喜雀躍(きんきじゃくやく)。だが町田だけはユニフォームの裾で顔を覆った。東京五輪で銀メダルを獲得したときも照れ笑いを浮かべるだけで、涙はなかった。職人のように淡々と自分のプレーをこなす町田には珍しい感情の乱れである。

「これまで3度決勝戦に進んだけど優勝にはたどり着けなかった。願いが叶(かな)わず引退した先輩たちの顔が次々浮かび、みんなの思いや願いをやっと実現できたと思ったら、感情があふれて……」

 その思いは富士通のヘッドコーチでカナダ人のBTテーブス(58)も同じ。富士通で9年、ヘッドコーチを務め、やっと手繰り寄せた勝利である。13年間在籍する町田とは、いわば同志。多くの感情や時間、情報を共有しチームを築き上げた。加えてPGは、コート上の監督と言われるほどチームの戦術・戦略を遂行するポジションでもある。BTが言う。

「僕と瑠唯のバスケ観は似ていると思います。多くの人はパスやドリブルの巧みさに注目していますが、実はディフェンス能力がとても高い。相手の攻撃スペースを瞬時に狭められる。でも瑠唯は目立ちたくない人。背中で引っ張るタイプだったけど、少し変わってきたかな。移籍してきた宮澤や林がいい刺激になっている」

 宮澤は21年、林は23年に、Wリーグで圧倒的な強さを誇ったENEOSサンフラワーズから移籍した。もともと富士通は強いチームではあったが、優勝するための何かが欠けていた。そこに東京五輪で活躍したオールラウンダーの宮澤、現日本代表キャプテンの林が加わったことで、富士通は変貌を遂げた。今季のテーマに「オーバーコミュニケーション」を掲げ、練習以外でもとにかくチームメンバーと密にコミュニケーションを取った。そんな中で、町田も自信を感じることができた。

「今シーズンに関しては、自分を信じようとしました。周りが自分を信じてくれているのが伝わってきて、自分も信じなきゃいけないと思ったんです。もしダメでも、周りの人がいるから大丈夫という心のよりどころもありました」

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