インクルーシブな遊具のある公園で催された「もぐもぐピクニック」での一コマ。朝比奈志津子さんは初音さんに「まーグルメになっちゃったわね!」と声をかけた(写真:古川雅子)
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 障害や加齢によって、かんだり飲み込んだりの困難を抱える人たちがいる。その苦労はあまり知られていない。すりつぶしたり、とろみをつけたり、日頃の食事には配慮が必要だ。AERA 2024年6月24日号より。

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「スナック都ろ美」を主宰する永峰玲子さん(左)と加藤さくらさん。イベント時は2人が「スナックのママ」になりきって進行。参加者の悩みも聞く(写真:スナック都ろ美提供)

 国旗の楊枝(ようじ)で飾られたステーキ。それに、唐揚げ、厚焼き卵、クリームドリア。じつは、どれもが、スプーンを入れるとほろほろと崩れる。

 これは、かんだり飲み込んだりする力が弱い子どものためのお弁当「もぐもぐBOX」だ。5月下旬、都立府中の森公園(東京都府中市)で開かれたピクニックのイベントで提供された。

 この日は、障害のある子がいる17組の家族と支援者たちが参加。その一人、朝比奈初音さん(24)には、重い知的障害と体幹機能障害があり、食べ物を飲み込む「嚥下(えんげ)」の力が弱い。そのため、すりつぶしたり、とろみをつけたり、日頃の食事には配慮が要る。

 母親の志津子さん(54)は、誤嚥(ごえん)しないよう「とろみ剤」をかけ、お弁当の食材となじませながらひとさじずつ娘の口の前に差し出す。すると初音さんが車いすから身を乗り出してパクッ。志津子さんは、にこやかに言う。

「食べっぷりがいい! 今日は私に気持ちの余裕があるからですかね」

 このお弁当は、昨年商品化された。提案したのは、重い嚥下障害の子どもがいる親たち。志津子さんも参加している交流サークル「スナック都(と)ろ美(み)」のメンバーだ。大学や医療者、和食料理店の店長らと共同で開発した。

 志津子さんは普段、家で食材をミキサーにかけてから、通販で取り寄せてあるとろみ剤などを駆使して食事を作る。他の家族向けの料理とは別の作業で1時間。そこから、本人が飲み込むのを待ちながら食べさせるのに、また1時間。一食ずつに費やす時間が長い。

「じゃ、外食しようと思うと、娘が食べられるメニューはほぼないですね」

 かんだり飲み込んだりの困難を抱えている子どもたちの存在は、まだあまり知られていない。「スナック都ろ美」の調査では、回答した親たちが「外出先で感じる困難」としてあげた筆頭が、「こどもがそのまま食べられるメニューがないこと」だった。

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