キユーピーの「やさしい献立」シリーズと虎屋の「やわらか羊羹 ゆるるか」。「ユニバーサルデザインフード」のロゴマークと、区分も明記(写真:古川雅子)

介護食の市場は拡大しても、「嚥下食」は普及しにくい

 嚥下障害は高齢者にも多い。高齢になるとまずかむ力が衰え、やがて嚥下が困難になる段階が訪れる。高齢者や障害者の施設では嚥下機能を確認する専門家がいるが、家庭では、正解がわからないまま、手探りで嚥下食を作り続けることになる。

「ひたすら孤独です。ドロドロの食事じゃ、作る楽しみもなかなか湧いてこない。ずっと家で『このやり方でいいの?』と自問自答しながら食事づくりに格闘しているうちに、だんだんやさぐれちゃうような気分になることもあるんですよね」(志津子さん)

 おいしく、できればもっと楽に。これは、当事者家族の切実な願いだ。

 介護の在宅化を見越して、国は10年ほど前から、介護食の普及を図ってきた。介護食を広く捉えて「スマイルケア食」と呼び、「青」「黄」「赤」のマークでラベル付けをした。青は健康を維持する上で栄養補給を必要とする人向け、黄はかむことに問題がある人向け、赤は飲み込むことに問題がある人向け、というふうに。

 実際、レトルトをはじめとする加工食品では、広がりが見られる。在宅の高齢者や障害者向けの介護食の市場は、ここ数年拡大し、2018年度から22年度の5年間で1.24倍の900億円を超えた(矢野経済研究所調べ)。

 にもかかわらず、「嚥下食」は、22年度の市場規模が348億円で、前年度比103.2%(同研究所)。わずかな伸びに留まっている。

 なぜ、嚥下食は普及しにくいのか。市販用介護食品の開発に90年代から取り組む大手食品会社キユーピーが現在注力しているのは、「咀嚼(そしゃく=かむ力)」が弱まった人向けの加工食品だ。なかでも「やさしい献立」シリーズはロングセラーで、同「やわらかごはん」は、第9回介護食品・スマイルケア食コンクール金賞を受賞。これは、食品メーカーなど96社で作る日本介護食品協議会が「ユニバーサルデザインフード自主規格」で定めるかたさの区分のうち、「舌でつぶせる」食品に該当する。

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