でも、子どもに救われていた部分のほうがぜんぜん大きかったんですよ。とにかく子どものことに集中しなくちゃいけなかったし、余計なことを考えることもなくて。私は小さい頃から、自分が“今、ここ”にいる感覚が持てなくて、ちょっと先のことや過去のことに引きずられるタイプだったんです。子どもと接しているときはそうじゃなくて、目の前のことだけだったから、私自身も助けられたというのかな。あとね、とにかく子どもがかわいかった(笑)。もともと子どもは好きだったけど、これほど「かわいい!」ってなるとは思ってなかったので。夢中だったし、幸せでしたね。
――お子さんの存在が、阿部真央さんを“今、ここ”につなぎとめてくれた?
はい。自分の家であっても宿泊先のホテルであっても、息子がいるところが自分の帰る場所になるので。彼の存在にはとても感謝しているし、活動にもまったくマイナスではなかったと言い切れます。もちろん“私の場合は”ですけどね。仕事の特性もあるし、サポートしてくれる母親やスタッフのみなさんの協力で成り立っていることなので。
――音楽の制作にも影響はありましたか?
すごくあります。たとえば子ども番組を観ていて、「この歌が何十年にもわたって愛されている理由があるはずだ」と考えたり、「これくらの月齢の子が必ず反応するリズムや声の高さがあるな」って分析したり。小学生くらいになると、「今はこれが流行ってる」という情報を持ってきてくれるし、それに対して「なるほど、面白いな」と思うこともけっこうあるんですよ。あとは子供の純粋さや素直さがすごく響くんです。たとえば宿題で作文を書いたときも、拙さが愛おしいし、“わが子だから”ということを抜きにしても美しい文章だなと思うんです。「うちには犬がいて、学校から帰ると、必ず靴下を片方だけ持っていきます」みたいなたわいもないことなんだけど(笑)、そのストレートさに胸を打たれる。そういう刺激はいつも受けてますね。