●富山空港は市街地から車で20分 新幹線との“奇跡の共存”なるか

 とはいえ、全日空側から突き付けられた条件、「1日350席、1便あたり約30席の利用率約17%の上積み」へはまだまだ程遠い。搭乗率が77%と高い水準に回復しつつあっても、特割料金に満たない、低料金の団体客の利用増加が目立っているためである。12月21日に石井隆一富山県知事が全日空の篠辺修社長と会談した際も「2往復以上減らして路線を再構築」を示唆されたという。そうした厳しい現状にもかかわらず、なぜ県は富山―羽田便を躍起になって守ろうとするのか。

「富山―羽田便があることによって、富山空港は海外19都市、国内32都市に接続され、乗り継ぎの利便性は高まっています。また、現在富山空港から飛んでいる便の7割以上は羽田便で、空港機能を維持するためにも羽田便の維持が必要不可欠です」(田崎さん)

 これまでも新幹線の開業により、廃止に追い込まれた航空路線は少なくない。東北新幹線によって羽田―仙台・花巻便、上越新幹線は羽田―新潟便、山形新幹線は羽田―山形便を撤退させている。東京までの所要時間は、最速で仙台で約1時間半、新潟は1時間50分、山形は2時間40分、花巻は2時間半程度。過去の実績からすると、富山―羽田便も新幹線開通から数年後に撤退が決定しても不思議ではないが、希望を持てる要素があった。

「首都圏と鉄道で2時間で結ばれた都市の羽田路線は、これまで全て廃止されてきました。しかし富山空港は、富山市内で市街地からは空港連絡バスで約20分、富山インターから車で5分と県内外から極めてアクセスしやすい場所にあります。また、羽田経由での国際線乗継は、全国の地方空港でトップクラスです。こうした利便性の良さは過去に航空路線が廃止になった地域と比べても有利。新幹線が開通しても空港も生き残る“奇跡の富山モデル”を実現させたい」(田崎さん)

 富山―羽田間のフライト時間はわずか60分程度と、搭乗時間だけみれば新幹線(最速)の2時間8分に比べると1時間以上の差があるが、東京近辺でも目的地や時間帯によって利便性の高さは異なる。北陸新幹線に一度は乗ってみたい気持ちがあっても、価格や利便性を考えて飛行機利用を検討してみるのも今なら無駄ではないだろう。

 1月下旬には、全日空から国土交通省に来夏ダイヤの申請・届け出が行われる予定。現在の便数を維持できるのか、それとも減便となり廃止への足掛かりとなってしまうのか――。富山空港の粘り腰に今年も注目だ。

(ダイヤモンド・オンライン編集部 林恭子)

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