ルソーは15歳のときに、出奔して放浪の旅に出た。「そこで、ある大金持ちの夫人と出会い、彼女の下で教養を身につけた(余談ですが、ルソーは女性にめちゃくちゃモテる色男でした)」とある。ところがこの夫人は愛人の下男と暮らしていたところにルソー少年を迎え入れ、ふたりと同時に肉体関係を持った。おまけに、その下男は数年後に謎の死(自殺らしい)を遂げる。すると、夫人はまた新しい男を作って、こんどはこのニューフェイスにほれ込んで、ルソーを遠ざけたので、居場所がなくなったルソーは、家を出ることになった。「めちゃくちゃモテる色男」という泉さんのコメントは明らかに“盛りすぎ”である。

 さらに泉さんは、「『子供』という概念を作ったのもルソーです。」と紹介している。これは確かだし、ルソーは『エミール』という小説仕立ての教育論も書いている。が、ある女性との間にできた子ども5人を全員、孤児院に捨てているひどいやつでもあるのだ。

ルソーが説いた平等と、いまルソー思想が浮上しているワケ

 ルソーが説く平等は「フランス革命にも大きな影響を与え」「1789年に制定されたフランス人権宣言『人は生まれながらに自由であり、権利において平等である』は『社会契約論』に基づいて書かれたものとされてい」ると解説しておられるが、革命後の恐怖政治(3万5000から4万人が断頭台に送られた)も、ルソーの愛読者ロベスピエールがルソー思想を実現しようとして起こしたものだった。フランス革命と人権宣言だけにフォーカスするのは、ルソーびいきが過ぎると言わざるを得ない。

 このようになにかと物議を醸しがちなルソーではあるが、泉さんがルソーを「最も尊敬する政治哲学者」だと言う理由はわかる。そして僕自身、リベラリズムが保守化し、民主主義が経済帝国主義に変わろうとしている現在こそ、ルソーの思想が浮上してしかるべきだと思っている。

 泉さんは、ルソーの著書の中で最も着目するのは『社会契約論』だと述べている。ルソーにとって最も重要な著書だとだれもが認めるところだろう。が、社会契約論を唱えたのはルソーだけではない。僕が勝手に「社会契約説御三家」と呼んでいるのは、トマス・ホッブズ、ジョン・ロック、そしてジャン=ジャック・ルソーである。しかし、この三人の中で、ルソーはかなり異色である。それは、「自由と平等」が他のふたり(特にロック)とほぼ真逆だからである。

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ルソーが唱える「自由」とは