
「木登りが大好き」から世界へ
千葉県立幕張総合高校のクライミング設備は特に充実している。4面の「ボルダリング」ウォールや高さ15メートルの「リード」ウォールに加え、東京五輪の設備を移設した公認「スピード」ウォールがあり、小中学生を対象に体験イベントも開かれている。
「昔は『初めて』という子が多かったんですが、最近はボルダリングジムも増え、初心者ではない子どもがほとんどです」と、千葉県山岳・スポーツクライミング協会の目次俊雄副会長は言う。
今年2月開催のスピードジャパンカップ2024で初優勝した竹内亜衣選手が体験イベントに参加したのは小学5年生のときだった。
「担当者の私にお母さんから直接連絡があったんです。彼女が来たら、『面白い』とクライミングに夢中になって、めきめき上達した」(目次さん)
世界ユース選手権2022・スピード男子ジュニアで優勝した藤野柊斗(しゅうと)選手も小学生のときにここへやって来た。木登りが大好きな少年だった。
「世界大会のスピード部門で優勝した日本人は彼しかいません。練習では世界記録に近い4秒台を出しています」(同)

手を伸ばしたところに「世界」
クライミングは握力や腕力勝負と思われがちだが、力頼みだとすぐに限界が来る。
「子どもは手や腕の力が大人に比べて弱いぶん、体の柔軟性を生かしたり、力不足を補う動き方を工夫したりする。だから上達が早いし、あっさりと難しい課題をクリアできたりする」(同)
記者が取材に訪れたときも、20人ほどの若者や子どもたちが練習に励んでいた。
「日本記録保持者など、錚々(そうそう)たる先輩選手たちと一緒に中学生がボンボン登っています」(同)
すぐ間近に、手を伸ばしたところに「世界」が感じられる。開かれた雰囲気もクライミングの魅力だろう。

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)