端的な言葉で伝えるとずっと心がけてきた。事業部長時代に考えた「Flexible Mind」は多様性の受け入れだ。いろいろな場で使え、社長時代も口にした(写真:狩野喜彦)
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 日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA2024年 6月10日号より。

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 1993年6月5日、ロンドンの国際海事衛星機構(インマルサット=現・国際移動通信衛星機構)で、持ち運びができる移動体通信の基地局「インマルサットM」が型式認定を受け、供給が始まった。独自技術で、世界で初めて開発した。マイクロ波衛星通信事業部のアンテナ開発部で担当課長のときだ。自然災害の被災地や国際紛争の地域における停戦交渉などの場で、重要な役割を果たした、携帯衛星通信の第1世代だ。

 求められた規格に合致しているか、最終確認にインマルサットが持つ衛星回線を借りて、1カ月泊まり込んでゴールした。「M」の容量は20リットルで、重さは13キロ。20リットルは縦40センチ、横50センチ、厚さ10センチの箱に相当する。電池で通話やファクシミリが60分連続でできて、緊急通信用に各国で大使館などが利用した。

示した「強い意志」でアンテナ開発からプロジェクト担当へ

 インマルサットは船舶の安全な航行に太平洋、インド洋、大西洋の上空に静止衛星を配置。装置が小さくなるにつれ、サービス対象が陸上の移動体や航空機へ広がり、北極と南極の付近を除く世界で使われている。

 入社以来、大学院で学んだ電磁波論を基にアンテナの開発を中心に手がけたが、それだけでは物足りず、希望職種を出す文書に「システム全体をみる仕事がしたい」と強い意志を書く。読んだ上司が「インマルサットM」の開発プロジェクトを任せてくれた。メンバーには無線畑だけでなく、システムや装置の開発部隊も入れる。製造や検査の部門からも集め、幅広い集団にした。「M」の利用場面を様々に想定し、運びやすさや静止衛星の位置をたやすく捉える方法を考えるとともに、製品にして売る役まで果たすためだ。

 この経験で仕事の領域が広がっただけでなく、プロジェクトマネージャーが持つべき要点も身に付いた。「意志」は、やはり、強く示したほうがいい。実は、ここに『源流』からの流れが注ぎ、勢いを増していた。

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