ハローワークで仕事を探すよう促しても、「ろくな仕事はない」と拒む夫の背中を拳骨で叩きながら、「なに言ってんの!」と声を上げた。自宅にいてもほとんど家事をしない夫に「せめて買い物ぐらいして」と訴えると、「平日の昼間に外をぶらぶらしていると無職だと近所の人にばれる」とメンツを気にする夫にさらに苛立ちが募り、「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」と蹴飛ばした。
そして、「鳥や獣だって、巣立ちするまで子どもの世話をするのに、こうやって働かなくなったあんたは動物以下じゃん」と罵った。職場から帰宅し、「あー疲れた」とつぶやく女性に、「そんなに疲れるなら仕事やめて、みんなで生活保護を受ければ楽だよ」と返す夫にカチンときて、「ふざけんじゃないよ!」と罵声を浴びせた。
「言い返されると、怒りが増幅するんです」
別の部屋で寝ている夫のいびきも許せない。
「こっちが眠れないほど家計のことで苦しんでいるのに、いびきなんかかきやがって」
寝ている夫の枕元に詰め寄り、「うるさい! なに、いびきかいてんだよ。こっちは明日も仕事があんのに!」と怒鳴りつけたこともある。
夫は何を言われても、ただ黙っていた。蹴られても叩かれてもやり返さず、時折、「やめて」と言うぐらい。その反応も女性には気に食わない。
「やめてほしかったら働け!」
長男は大学院進学を断念して就職。東大受験を予定していた次男には「下宿代を捻出できない」と説得し、自宅から通える国立大学に志望先を変更してもらった。女性は息子たちとともに、夫に「出てけ!」と繰り返すようになった。夫は強く拒んだが、実家に追い出す形で別居。3年後に離婚が成立した。
「夫は今も実家でひきこもりの生活をしていると思います」
そう話した後、女性は少ししんみりしてこう言った。
「私と息子の3人が経済苦の状況で、夫が実家に出ていくのが合理的だと思っていました。でも今思うと、ちょっと気の毒だったかな。殴られたり罵られたりしても苦でないという人は世の中にいませんから」
冷静に振り返られるようになったのは、離婚から時間が経ち、夫との関係について距離をおいて考えられるようになったからだ。