「夫は社会人になるまでアルバイトをした経験もなく、バブル期に就職したので就職の大変さも全く味わっていません。常に居心地のいいところにいないと気が済まない、ずっと陽の当たるところを歩いてきた人が、52歳になって足もとが揺らぐ体験に初めて見舞われてショックだったんだと思います」
そしてこう続けた。
「夫はまじめで、趣味や息抜きできることがないから、仕事が気に入らないとそこにだけ意識が向いてしまったのかもしれません」
なぜDVを止められなかったと思うか問うと、女性は「相談できる人や場がなかった」ことを一因に挙げた。
「私にも心を許して話せる友人が周囲にいなかった。両親に相談しても仕方がないという気持ちもありました。人をケアする職業に就いているのに、家に帰ってくると怒りのスイッチが入ってしまう。自分自身も精神が壊れていく、という自覚がありました。ですから、DVをしていた時から相談できる人や場所がほしかったんです」
女性はDV被害者の相談窓口にしかアクセスできず、そこでは精神科や心療内科の受診を勧められたという。
「医師はカウンセリングをするわけではなく、抗不安薬や睡眠薬を処方するだけ、というのは職業上、知っていましたから、その時点で諦めました。今からでもカウンセリングを受けられるなら受けてみたいです」
罪悪感を払拭したい、と吐露する女性に同情しつつ、疑問もぬぐえなかった。アンケートの回答欄に元夫を「クズのような人」と表現した人物とは乖離があるように感じられたからだ。その点を問うと、女性は「反省する気持ちと憎む気持ちが同居」する複雑な心情を明かした。
「自分が逆の立場だったら、あんな言われ方をされたら居たたまれないだろうなと客観的に考えられるようになって、反省の気持ちがわきました。でも一方で、クズみたいな人だったから私はDVをやってしまった、という気持ちもあります。その両方の心情が振り子のように行ったり来たりしているのが正直な思いです」(編集部・渡辺豪)
※AERA 2024年6月10日号より抜粋