そして昨年、休学中の3年生の春に起業した。実家の介護施設へ手伝いをしに帰省したとき、自己肯定感の低い高齢者の存在が気になった。「どうせもうすぐ死ぬから」とネガティブな言葉を口にする高齢者を少しでも楽しませたい。それが現在の事業につながった。
森山さんの周りでも、最近は起業する学生が増えているという。インスタグラムで「起業しました」と報告する投稿をよく見かけるようになった。森山さんは言う。
「学生ならではの強みもあると思うんです。例えば、システム開発のためのエンジニアを社内に取り込みやすい。学内に工学部の人がウロウロしていますから」
「AIの進展」背景に
起業・大学発ベンチャーが専門の東大大学院工学系研究科・各務(かがみ)茂夫教授は、「学生ベンチャーが増えている背景には、AIの急激な進展も大きく関係している」と見ている。
「AIは、デジタルネイティブなZ世代の学生には身近な存在です。多くの学生がAI(機械学習、深層学習等)をテーマに論文を書いています。プログラミング言語Python(パイソン)なども、文系の学生でも扱えます。HONGO AIというプロジェクトが19年にスタートしましたが、その頃から、学生ベンチャーがドンと増えた印象があります。AIのユースケース(活用方法)の数の分だけ起業の可能性があります」
大学も学生ベンチャーを増やそうと注力している。東大産学協創推進本部は本誌の取材に、
「大学として学生起業の支援にも力を入れており、今後は学生発の会社の捕捉率を上げる方法を検討していきたいと考えています」
と書面で回答した。
全国の大学で最も大学発ベンチャーを生み出しているのは、東大だ。23年度に50社増えて、420社になった。
次いで多い慶應義塾大学は計291社で、20年度の3倍以上に急増している。トップ20大学の上位は、研究力の高い国立大学が並ぶが、早稲田大学、立命館大学、近畿大学なども上位に食い込んでいる。