【株式会社emome】東京大学文学部3年 森山穂貴さん(21)/2002年生まれ。21年に入学。23年、emomeを創業。介護施設の映像活用レクリエーション「シニアカレッジ」などを展開(写真:本人提供)
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 学生が自ら会社を起こしてアイデアを具現化する「学生ベンチャー」。大学も支援に乗り出し、その数は右肩上がりに増え続けている。背景にあるものは何か。独自のビジネスを展開する学生を取材した。AERA 2024年6月3日号より。

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 2022年の東京大学の入学式。藤井輝夫総長の祝辞に衝撃が走った。3分の2が起業の話だったからだ。

東大関連ベンチャーの支援に向けた取り組みを積極的に進め、30年までにその数を700社にするという目標を掲げています」

「少しでも関心があればぜひ勇気を出して、本学での起業をめぐるポジティブな語りと対話の輪のなかに一歩足を踏み出してみてください。そこにはきっと、教室での学びとはまた違った新しい世界が広がっているはずです」

 世界にインパクトを与えるベンチャー企業を生み出そうと、国や大学は今、様々な支援に乗り出している。

 01年に経済産業省が「大学発ベンチャー1000社計画」を掲げてから20年超、大学の教授や学生らが立ち上げた「大学発ベンチャー」は順調に数を増やしてきた。経産省によると、23年度の大学発ベンチャーの数は4288社にのぼる。

 22年には岸田政権が「スタートアップ育成5か年計画」を発表、27年度までにスタートアップへの投資額を10倍以上である10兆円に増やす目標を掲げた。

 大学発ベンチャーで最も多いのは、教授らが研究成果を元に立ち上げた企業で、全体の約半数を占める。それに対し、近年着実に増えているのが「学生ベンチャー」だ。23年度には全体の約3割にあたる1200社近くまで増加した。

起業の機運の高まり

 学生ベンチャーとは、学生が自らのアイデアを具現化するために起こした会社のこと。例えば、東大工学部で学ぶ在学生が21年に立ち上げた燈(あかり)株式会社(野呂侑希社長)は、建設現場をDX化するベンチャー。従業員数は140人にのぼる。

 大学発ベンチャーの支援を担当するガイアックスの宇田川寛和さん(27)は、学生の間で起業の機運が高まっていることを肌で感じている。

「自分のアイデアでお金を稼ぐYouTuberという存在がクローズアップされる中、『自分も小さくてもいいからビジネスをしてみたい』と考える学生が増えていきました。各大学に起業部や起業サークルが次々と生まれ、現在39大学に広がっています」(宇田川さん)

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