(撮影/MIKIKO)

 場所づくりは僕にとって、グラフィックデザインと同じ感覚。そこに無限のストーリーがあって、ひとつひとつ手入れして、場の血行が良くなっていく。次の場所は農地や山林の開拓など壮大になるのでかなり覚悟がいりますが、やりたいイメージはあります。これまで馬車馬のように働いてきましたが、これからは自然の中でまったく別の働くイメージをつくっていきたい。それが何かを体感するための模索が始まっています。

 その日その日を一歩ずつ、力を抜いてやっていきます。

妻 白石乙江[59]ギャラリー店主

しらいし・おとえ◆1965年、大阪府生まれ。グラフィックデザイン業を経て、自宅で手ごねのパン教室を主宰。2014年から、夫とともに作家の作品を紹介する小さな家「Falt(フェルト)」を運営。24年3月末日、10年間育んだ場を閉じ、現在は移転に向けて準備中

 大阪・池田で10年間運営してきた場所を閉じ、この5月に去ります。建物がなくなる前の最後の撮影が今回です。

 ここは元々、夫の事務所として借りた一軒家で、ギャラリー的な場をつくったら面白そうと提案し、一緒に実現してきました。夫は私が思いついたアイデアを形にできる人。遠慮せずに言いたいことを言える相手だから進めたのだと思います。

 転機の今、流れに抗わず先を膨らませる方向で考えた方が楽しい。次の場所では家の片づけから始めています。草刈りしていると、近所の人が裏山で採れた筍をくれたりも。動いて、言葉を交わすことで人との関係が生まれ、たんぽぽの綿毛のようにぽっぽっと次につながる兆しを感じます。

 今回の移転は、この年で人生を切り拓く最後のチャンスかもしれない。この人と一緒ならできると思えるのはこれまで培ったものがあるから。これからはお金稼ぎだけじゃない、暮らしの中の働きを含む生き方を提案する種の一つになれたらいいなと思います。

(構成・桝郷春美)

AERA 2024年6月3日号

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